企業経営やマーケティングに役立つベンチマークと競合調査の重要性

ベンチマーク

中国古典の名著「孫氏の兵法」の中にこんな言葉があります。
「之を知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。」
これは、相手に勝つためにはたくさんの情報を集めることが必要だという意味。現代の企業経営でも競合企業に勝つためには、相手の情報を得て、良く理解することが重要です。そこで競合調査が会社経営にとって重要になってくるのです。

1. ベンチマークとは?

ベンチマークという言葉は、もともとは主に測量の世界で用いられていた用語です。測量業界では、建築物の位置や高低を決める際の水準点や基準点のことを指す用語でした。そのことから転じて、今ではさまざまな分野で評価基準を意味する語句として用いられています。

ベンチマークという言葉が主に使われるのは、測量分野以外に金融、コンピューター、自動車、企業経営・マーケティング分野などです。金融分野では、投資する際の運用の指標や、目標となる基準のことを呼びます。投資信託が投資する商品や市場の各種指数を指すTOPIX(東証株価指数)や日経平均株価などの指数などが代表的なベンチマークです。そのほか、コンピューター分野でのベンチマークとは、ハードウェア及びソフトウェアの動作速度を調整するための基準の数値であり、自動車の分野では、歴代で評価の高い車種や完成度の高い車種など、目標とすべき車のことを意味します。

このようにベンチマークという言葉はさまざまな分野で使用されているのですが、それでは企業経営・マーケティング分野でのベンチマークとは、一体何を意味するのでしょうか。

1-1. 企業経営・マーケティング分野でのベンチマーク/ベンチマーキングとは?

企業経営の分野では、「経営における目標」を指してベンチマークという単語が用いられます。企業がより優れた経営手法を取り入れたいとき、ベンチマークを設定するのは非常に有効な手段です。マーケティング分野においても同様の意味合いで用いられ、「〇〇社の●●をベンチマークする」といった使い方がされます。

また、ベンチマークを用いて自社の業績の改善を図ったり、成長を促したりするための手法をベンチマーキングと言います。企業が自社の製品やサービス、経営や業務、ビジネスプロセスなどの改善のため、自社より優れている競合会社、または別業界の企業の事例などを指標(ベンチマーク)にし、最も優れている事例(ベストプラクティス)と比較・分析したうえ、自社の事業に導入することで、より良い改善計画をつくり現状改善を図ります。ベンチマーキングは、必ずしも同業種間で行う必要はなく、他業種で行われているプロセスをベンチマークし、成果につなげるケースもあります。1970年代にアメリカ企業が経営手法の一環としてベンチマーキングを導入し、多くの企業がこの手法で大きな成果を手中に収めました。その後、日本でも広く知れ渡るようになり、現在では多くの企業がベンチマーキングを自社に取り入れています。

ベンチマーク対象は必ずしも企業である必要はなく、事業単位、または、その事業が行われる過程などを対象とする場合もあります。ベンチマークで利用される分析手法として、4P分析やバリューチューン分析のほか、さまざまな定量分析手法があります。ベンチマークを用いて他社の成功例と自社の同業務におけるパフォーマンスとの比較を行うことで、自社の置かれている状況を客観的に評価、把握することができます。また、効率的により良い手法や工程などを取り入れ、自社の業績の向上に反映することが可能です。ベンチマーク対象は、ベストプラクティスの中から選び、設定したのちにどう自社に取り入れていくか検討し、学んでいくことが最大のポイントになります。

2. 競争優位の獲得に重要なベンチマークを有効なものにするには

ベンチマーク2事業を拡大して同じ業界内での競争に勝ち抜いていくためには、自社の現状把握だけではなく、他社の情報を把握しておくことが重要です。ライバル企業や競合企業をベンチマークし、詳細に分析、それらを参考に適切な戦略を立てることが、自社の事業拡大につながります。ベンチマーク設定をせずに自社分析を行った場合、比較対象が自社の過去の業績や数字の増減などだけになってしまい、主観的な評価になりがちです。客観的な評価をしにくいために、自社の改善すべき部分や方法が分かりづらく、ただ結果を比較しただけにとどまることにもなりかねません。大切なのは、単に結果を比較することではなく、ライバル企業・競合企業の優れている部分を分析して、自社が望む目標の達成やそれ以上の結果に到達することを前提にベンチマーキングをすることです。それによって、初めて自社の弱みや問題点、変革が必要な業務プロセスなどを知ることができるのです。

2-1. 企業戦略、競争優位の確立に重要なベンチマーク

企業戦略を立てたり、ライバル企業や競合企業よりも優位に立つためのベンチマーキングを行う上で最も重要な要素は、ベンチマークを適切に設けることです。ベンチマーキングの目的のひとつとして競合企業などのベストプラクティスに追いつくことが挙げられますが、あくまで最終的な目的は戦略を策定しそれを実現したり、競争優位を確立したりすることです。その目的を達成するためには、ベンチマークが自社の課題に合ったものでないといけません。そうでないと、分析を行っても実際に比較したいこととズレが生じ、当面の目標を達成することさえ危うくなり、有用な結果が得られません。
ベンチマークは自社の改善すべき課題を明確にしたうえで、業務プロセスやサービス、業績など特に比較したい部分をしっかりと認識して設定することがとても大切です。

2-2. 有効なベンチマーク設定に欠かせない徹底した競合調査

有効なベンチマーク設定には、徹底した競合調査が必要不可欠です。競合調査は、自社の至らない点、自社が優位にある点などを中心に自社と競合の様々な状況を比較して、違いを洗い出すために欠かせないもので、ベンチマーキングの根幹をなす調査です。最終的には、競合企業との差別化を図り、自社独自の商品・サービスや企業戦略を打ち出すことにつなげていく必要があります。そのためには、調査の目的を見失わないよう、調査比較する対象・内容を明確にしなければなりません。目的が経営プロセスの改善にあるのに商品についてじっくり調べても無意味ですし、その後のプロセスにも多大な影響を及ぼしてしまいます。

また、比較対象には自社よりも優れた企業を選ぶことも重要です。ベンチマーキングの基本は、競合企業のベストプラクティスと比較・分析したうえで、自社の事業に取り入れることにあります。自社より低評価の企業を比較対象にしても、そこから得られるものは少なく、あまり意味をなしません。

さらに、業界や業種によって調査対象となる内容・項目は変わってきますが、基本的には、競合企業の「商品・サービス」「戦略・業務プロセス」「組織・人材・経営基盤などを含めた強み・弱み」を軸に考えると、のちのベンチマーキングの工程にぶれが生じる可能性はかなり低くなります。これらを調査することで、自社の戦略・業務プロセスや優劣を客観的に評価できるようになり、既存の考えや固定観念を打ち破ることにつなげられるのです。
こうして得られた他社の情報を詳細に分析することで、有効なベンチマークを設定することができるようになります。

3. ベンチマーキングはどのように行う?

ベンチマーク3ベンチマーキングを企業経営やマーケティングに活かす場合、どのようなプロセスで行うと良いのでしょうか。
その導入手順は大きく以下の4つの段階に分けられます。
(1)計画
(2)情報収集・比較・分析
(3)目標設定
(4)実行

具体的に説明すると、まず、(1)で、自社の問題点・改善したい部分(課題)を明確にし、課題に合ったベンチマークを決め、ベストプラクティスを抽出し、どういう観点から比較するか、比較基準を設定します。(2)では収集した情報を比較し、現状どのようなギャップがあるかを洗い出し、その原因を分析して、明確にします。(3)では分析結果から今後の目標を決めて社員に周知します。(4)では目標を達成するべく改善計画を実行し、その後どの程度実際に実行されたかや、実行した結果どのような変化があったかを検証します。

この中でも特に重要なのが(2)の工程です。この際に忘れてはならないのが、ベンチマークの対象となりうる企業は他業界にもあるということです。さらにベンチマークできるのは商品やサービスだけとは限りません。経営や業務、ビジネスプロセスなどさまざまな情報がベンチマークできます。そのためにも、自社にとって有益か無益かを判断するのに十分な、本当の意味では「競合」していない他業界の企業も含めての「競合調査」が必要になってくるのです。

繰り返しますが、ベンチマーキングの本来の目的は、ベストプラクティスと比較・検証して自社の改善点などを把握し、実行することにあります。そのためには、明確となった問題点などは、上層部だけではなく、広く従業員へ周知することが大切です。また、1回のベンチマーキングのみで終わらず、毎年の中期経営計画の立案などに反映し、長期的な改善計画にも役立てることも重要です。

ベンチマーキングを広めたと言われるロバート・C・キャンプは、著書「ベンチマーキング―最強の組織を創るプロジェクト(1995)」内でベンチマークによる経営改革の方法として12項目のステップを上げており、より詳しくベンチマーキングの手法を説明しています。これについては、詳しく解説している記事がネット上にもたくさんあります。一度ご覧になるとよいでしょう。C・キャンプが提唱した12項目のステップは以下のとおりです。
(1)課題を選択する
(2)プロセスを定義する
(3)潜在的なパートナー(比較対象)を検討する
(4)データの情報源を確認する
(5)データを収集し、全ての比較対象を選定する
(6)比較対象と自社の差を見出す
(7)比較対象と自社の方法の違いを見出す
(8)今後の目標値を決定する
(9)社内コミュニケーション
(10)最終目標を調整
(11)実践
(12)見直し、再調整

4. ベンチマーキングを行うとどうなる?メリット・デメリットを紹介

自社の状況を分析する際、ベンチマークをしっかり定めることは、経営のプロセスや業績などを客観的にとらえるために大変有用な手法です。ただし、ベンチマーキングは決して万能ではありません。実際にベンチマーク経営を行うことで考えられる、メリットとデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

4-1. ベンチマーキングのメリット

ベンチマーキングのメリットとして挙げられるのは、まず、自社のパフォーマンスを客観的に把握できることです。業績が伸び悩んでいるなど何か問題が発生した場合、自社内部での業績の比較や分析だけだと、主観的になりがちで、改善すべき問題点に気づけない可能性があります。ベンチマークを適切に定め、他社の優良事例と比べ、調べることで自社が置かれている現状を客観的に把握することができ、パフォーマンスの問題点などが明確になり、改善策を検討することができます。

また、競合企業やライバル企業の優れているところを吸収できることもメリットとして挙げられます。ベンチマーキングとは、言い換えれば「ベストプラクティスに学ぶ」ことです。ベンチマークに設定した企業の優れている部分を学んで吸収できれば、自社の問題点の改善にもつながります。また、新規事業を始めるときにもベンチマークは非常に有効な働きをします。やるべきことが多い新規事業の場合、ノウハウがない自社だけで考えた手法で業務を行うより、すでに成功をしている他社をベンチマークし、手法や手順を学べば、効率的に自社に合わせたベストな手法をつくることができます。その分、失敗するリスクは少なくなるでしょう。さらには競合他社の戦略と潜在能力を把握することで、自社と比較した場合、その事業に投資すべきかどうかの判断材料にもなり、投資の失敗などを防ぐこともできます。

他にも、時間の短縮や経営資源などの投資が少なくても済む点などさまざまなメリットが挙げられます。ベンチマーキングを行う場合、社内の一部のメンバーが行うのではなく、営業、開発、企画などそれぞれの部署の特徴や強みを活かして情報を収集することで、よりベンチマークの設定が分かりやすくなるほか、社内のビジネスインテリジェンス機能を実現する手助けともなります。

4-2. ベンチマーキングのデメリット

逆にデメリットとなる例を挙げると、他業種にベンチマークを求め自社の改善を図った際に、結果的に自社に取り入れることができず見込み違いだったという場合や、表面上は真似ができでも本質の部分を真似することは、資産や人材的に難しいという場合です。

また先行の優れた手法に頼りすぎるが故に、革新的なアイデアなどが出にくくなる可能性などもあります。ベンチマーキングという手法を取れば大きな失敗をするリスクは減りますが、その分野で他社を出し抜いてトップに立てる可能性は少なくなるのです。
ただし、これらはしっかりとした競合調査を行っていれば回避できます。特に、「トップに立てない」という考えはベンチマーキングの本質を見誤っています。あくまでもベンチマーキングの目的は、ベストプラクティスを超えたところにある競争優位の確立にあります。そのために競合調査を行って、自社と他社の優劣を客観的に評価するのです。それは、既存の考えや固定観念を知ることでもあり、それが分かれば、業界や自社内にある古い体制を打ち破り、一躍、業界のトップに躍り出ることもできるのです。

さらに、自社に情報収集を行う組織がなかったり、情報収集はできてもそれを分析から実行にうつすスキルや知識が乏しいと、ベンチマーキングを行ってもそれを活かすことはできないということもあります。自社にベンチマーキングを行う十分なリソースやノウハウがないと思われる場合は、必要に応じて外部の専門家に依頼することをおすすめします。ベンチマークの設定があやふやだと、ベンチマーキング自体が意味のないものになってしまいます。専門家に依頼して、しっかりとした競合調査を得て、無駄な労力や時間を省くことも重要です。

5. ベンチマーキングによって効果を上げた事例をご紹介

ベンチマーキングで業績を上げ、成功した企業はいくつもあります。世界の名だたる企業もベンチマーキングを行い、効果を上げています。ここでは世界的に有名な代表事例を2例ご紹介します。

事例① 米国ゼロックス社

ベンチマーキングの先駆者的な役割を果たしたとされているのが、アメリカのゼロックス社です。1959年に世界初の普通紙複写機を発売し、長年にわたり複写機の独占企業として成功してきました。ところが、1970年代後半に特許が失効となり、多くの企業が複写機市場へ新規参入することになります。長い間、競争企業がおらず、複写機市場を独占してきたゼロックスは、多くの新規参入企業との競争に勝てずに、急激に深刻な経営不振に陥りました。中でもキャノンなどの品質が良く安価な製品を次々に投入する日本企業が市場を席巻し、ゼロックスの市場シェアは著しく低下してしまいます。

こうした状況を憂慮して、ゼロックスの経営陣は自社の問題点を洗い出しました。結果、「品質」「時間」「コスト」において日本企業に後れを取っていることを認識し、全体的な企業改革を推進します。ゼロックスは、日本企業よりも劣っている部分に対し、優れた事例を持つ企業を積極的に指標(ベンチマーク)に設定しました。そして、その手法を自社の問題点の改善策として応用する、ベンチマーキングの手法を確立したのです。
その中でも特に有名な点は、アウトドアメーカー「LLビーン」をベンチマークしたことです。ゼロックスは、改善すべき問題点のひとつとして、流通に関する調査を行いました。その結果、日本企業などの競合他社のように効率よく製品を市場に流通するためには、そのプロセスが重要であるという考えに至ります。そして、他業種であるLLビーンの注文処理に関する業務をベンチマークとして設定し、分析を行ったのです。

他業種であるLLビーンの業務プロセスを自社に応用し、事業の立て直しに成功したこの例は、製品やサービスだけではなく、そのプロセスをベンチマーキングするという考えと、業界外にベストプラクティスを見つけ、それを自社に応用するという画期的な手法として代表的なベンチマーキングの事例として語られています。その後、ゼロックスは、自社のベンチマーキングの事例を公表しています。また、同社で長年ベンチマーキングを担当していたロバート・C・キャンプは、ベンチマーキングに関する自著でベンチマークによる経営改革の方法を発表するなど、ベンチマーキングの普及に貢献しています。

事例② 米国サウスウエスト航空

アメリカの航空会社サウスウエスト航空は、現在では全米に路線網を持つ大手航空会社として知られていますが、創業当初はローカルの小さな航空会社でした。新路線を獲得し、事業の拡大を狙っていましたが、新たな航空機を購入するための資金が不足していました。資金不足を解消するために自社のパフォーマンスを見直した経営陣が気づいたのは、給油・整備にかかる時間の長さでした。

その頃のサウスウエスト航空のフライト時間は、平均1時間程度であるのに対して、給油・整備に要していた時間は45分。この事態を非効率的だと考えた経営陣は、給油・整備時間の短縮を実現することで航空機の稼働率を上げ、新たに航空機を購入することなく、既存の航空機を使って新規路線の獲得することを思いつきます。サウスウエスト航空の上層部は、まず競合企業であるほかの航空会社の給油・整備時間を調査しました。しかし、他社の平均時間も50分程度であり、自社の整備時間45分の方が短く、まったくベンチマークするに値しない指標ばかり。ただ、サウスウエスト航空の経営陣はそこであきらめることなく、同業界だけではなく別の業界にベストプラクティスを見つけて参考にすることを考えます。

経営陣が見つけたベストプラクティスは、世界三大レースのひとつと呼ばれる、インディ500マイルレースのピットクルーでした。サウスウエスト航空は、レース中のわずかなピットイン時間で的確な整備を行うインディ500のピットクルーの業務プロセスをベンチマークし、徹底的に分析します。その結果、自社の給油・整備時間を従来の45分から15分という驚異的な時間短縮を実現することに成功したのです。この短時間の給油・整備時間の実現で、サウスウエスト航空は航空業界内での競争優位性を高めます。業績を急激に伸ばし、2007年まで30年間連続黒字という輝かしい業績を持つ企業へと成長しました。

ここでも、業界を超えて異なった業務プロセスをベンチマークするといった大胆な手法が重要なポイントとなっています。この事例もやはり、ベンチマーキングの成功例としてとても参考になるものです。ベンチマーキングする場合には自社の何を改善するべきなのか、そしてそれに対してどの業務プロセスをベンチマークすれば良いのかを明確にするのが、ベンチマーキング成功のポイントだということを如実に表した一件として語り継がれています。

6. まとめ

ベンチマーキングで自社の問題点や優位性を客観的に知ることができれば、今まで気づかなかったことに気づけ、そこから新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。しっかりした競合調査は正しいベンチマークの設定を導き、ひいては、企業経営やマーケティングに有用なベンチマーキングにつながります。企業戦略を実行し、競合他社を抑えて業界で優位に立つために、自己分析に加えて、参考事例の幅広い収集や徹底した競合調査を行うよう心がけましょう。

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