カスタマーハラスメント”カスハラ”から企業と社員を守る対策3局面

2019/12/26

カスタマーハラスメント-1

モンスタークレーマーなど、商品やサービスの顧客(カスタマー)が、企業の従業員等であるため相手が立場上強く出にくい状況を利用し、過度な攻撃や謝罪要求を行う「カスタマーハラスメント」(カスハラ)が増加しています。UAゼンセン流通部門が2017年に行ったアンケート調査でも、回答件数計43,835件のうちカスハラが「増えている」と感じている回答割合が48.4%に上っています。

通常のクレームを超えて「カスハラ」になると、直接の被害を受けた従業員の中には強いストレスを感じて精神疾患になる人さえいますし、ネットやSNSでの拡散によって本来は被害者の側である企業の評判さえも傷ついてしまうことがあります。

接客の現場ではクレームや、カスハラをゼロにすることは困難です。だからこそ、自社の評判や従業員を守るためにも、企業はカスハラに対して現場任せではなく、対策をあらかじめ講じておくことが今や必須となっています。今回は「企業が行うべきカスハラ対策」に焦点を当ててまとめてみました。

 
1. 「カスタマーハラスメント」いわゆる「カスハラ」とは

SNSの普及もあって、近年は衝撃的なカスハラ場面を捉えた映像が拡散されることがしばしば起きています。小売店や飲食店など、主に接客を伴う業種を中心に、或いは自治体や公共機関等でも、利用者などからの過剰なクレームによって社員・職員等が土下座などをさせられ、暴力的な言葉を浴びせられる映像などを、皆さんも目にしたことがあるのではないでしょうか。

もともとある程度サービスや商品に不満があって企業や店舗に対してそれを伝えることは「クレーム」として認識されていました。そしてクレームそれ自体はある意味、企業や店舗が自社の商品、サービスの欠点を知り、改善すべき点が明らかになる為の重要なポイントでもあったのです。

それが近年、クレームが高じた結果、行き過ぎたクレームは「カスハラ」として、広く社会に認識されるようになってきているのです。

1-1. 法律でも防止に踏み出したカスハラ

ハラスメントについて「労働施策総合推進法」いわゆるパワハラ防止法が2019年5月29日に成立した事はまだ記憶に新しいですが、これに基づき第20回労働政策審議会 (雇用環境・均等分科会(旧雇用均等分科会))で2019年10月21日に示された指針案では、事業主が講ずべき必要な体制整備として、次のことが盛り込まれています。
 

事業主は、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関する労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、以下の取組を行うことが望ましい。
また、併せて、労働者が当該相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。

・相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。
・上記の相談を受けた者が、相談に対しその内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

「パワハラ防止法」と言われる同法ですが、「顧客等からの著しい迷惑行為」と具体的な定めをすることで、「カスハラ」についても防止に踏み出しているのです。

1-2. カスハラとは

厚労省はパワハラ防止法の関連資料の中でパワーハラスメントを以下の様に定義しています。

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものです
 ① 優越的な関係を背景とした
 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
 ③ 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)
 【適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません】

カスハラは行為者であるカスタマー(顧客)の「業務上」の行為ではありませんが②について「業務上」という言葉を除く、または「取引上」等と置き換えることで定義されると考えられます。

 
1-3. カスハラのタイプ

ほんの些細な事からでも大きなトラブルに発展することがあるカスハラですが、大別するといくつかのパターンに分けることができます。

冒頭でカスハラに関する調査を紹介したUAゼンセンでは「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン」を出しており、その中でカスハラを以下の様に分類しています。
 

1. 長時間拘束型 :業務に支障が出るほどの長時間のクレーム

2. リピート型 :繰り返し不合理な要求をしてくる

3. 暴言型 :大きな怒鳴り声による侮辱的な発言で名誉棄損や人格否定

4. 暴力型 :身体への接触の他、物を振り回したりするなど

5. 威嚇・脅迫型 :直接的な脅しの他、危害をにおわせる行為など

6. 権威型 :社会的権威等をかさに着ての要求

7. 店舗外拘束 :カスハラクレーマーの自宅、事務所、喫茶店などへの呼び出し

8. SNS中傷等 :インターネットやSNSでの中傷情報の掲載・流布

 

同ガイドラインでは、このような要求態度で商品の代金を超えるような要求をしたり、通常の謝罪を超えて土下座を要求したり、解雇や実現不可能な要求が求められる場合はカスハラとして判断してよいものとしています。

 
2. 企業が講じておくべきカスハラ対策

カスハラの被害に遭った結果、従業員が健康を損ねてしまうことや、辞めてしまったりすることは最悪の事態として考えられます。あるいは、会社そのものがインターネットやSNSで中傷する書込みがなされ風評被害をこうむる可能性も考えられます。会社は企業と従業員を守るために、どのような対策を講じておくべきでしょうか。

ここでは、「事前」、「発生時」、「事後」の3つの場面に分けて見ていきます。

2-1. 【局面1】事前に講じておくべき対策

自治体や公共機関も含めた接客機会の多い現場では、以前よりクレーム対応についてのガイドラインやマニュアル整備を進めているところもありました。そこまで出来ていなくても、従業員教育に取組んでいる企業や店舗は少なくありません。

しかし近年の状況は、これに「過剰な要求を受けた場合」すなわち「カスハラが発生した場合」についての対応策を加えておく必要性が高まっています。クレーム同様、従業員や現場の管理者が整理された知識と心構えがあるとカスハラに発展するトラブルを未然に防止する可能性が高まり、あるいは発生しても、被害を大きくせずに済む可能性が高くなります。

 
2-1-1. 自社事業で生じがちなカスハラ典型例の把握

カスハラのタイプは前章1-3.カスハラのタイプでも挙げたように、業種業態によって起こりやすい典型例は異なります。
まずは、カスハラでなくても過去に自社で起きたクレームの記録を振り返ったり、業界団体等あれば情報共有してもらうなどして、自社の商品・サービスで起こりがちなカスハラの典型例を把握します。
特に自社の事業についての具体的なイメージが描けるほうが対策を練るにも役立ちます。

 
2-1-2. カスハラ発生時に備えた基本的な対応方針=ガイドラインの作成

自社の店舗や窓口で起こりうるカスハラのイメージが把握されたら、対応方針を作成します。現場での対応、一定のラインでの現場責任者での対応、対応専任部署での対応などを設定します。前述のような広く共通するガイドラインも公表されていますのでそれらを参考にしながら、自社の組織にあった(例えば、顧客がエスカレートした場合にどの部署のどの役職者が対応するのかも具体的に織り込んだ)ものとしておきます。

一般のクレーム同様、「カスハラ」もまずは発生させないことが肝心であり、発生の防止には通常のクレームの発生防止策をより徹底することが求められます。
しかし、カスハラは発生当初からその異常性が明らかな場合もありますが、初期の段階では正当なクレームと区別がつかない場合もあります。通常のクレームではなく「カスハラ」であると判断する基準を明記しておけば、一般のクレーム対応であるか、カスハラ対応であるかの判断が容易になります。

既にクレーム対応のガイドラインを作成してあるのであれば、それに「過剰な要求を伴う場合」=「カスハラの場合」としての対応を付記することになります。
一定以上の過剰な要求には、無理に担当者だけで対応しようとせず、組織的な対応を図ることも重要です。通常のクレームを超える「カスハラ」に対しては会社として対応することを明記し、本社の専門部署等で後日対応することなどの手順を決め、現場でもそれに委ねることが可能であることを周知しておくことで、担当者、現場管理者等の自己犠牲的な対応を回避できる確度が高くなります。

 
2-1-3. 研修等による周知徹底

カスハラについての自社のガイドラインを作成したら、社員に周知徹底します。現場担当はもちろん、ラインにある現場管理者、専門担当部署、役員等の経営陣も、自社が顧客のクレームをどのように受け止めるかを再確認しながら、過剰な要求を伴う「カスハラ」から社員や組織をどのように守っていくのかという視点からも共有・再確認します。

特に現場については、業務研修などの際に模擬訓練を行う等の機会を通じて、万が一カスハラが発生した現場での冷静な対応ができるよう普段から備えておきましょう。

 
2-2. 【局面2】発生時の対応
カスタマーハラスメント-2

どれだけ注意を払っていても、ほんの些細なことがきっかけで発生しうるカスハラ。発生してしまった際の対応にはその場に応じた柔軟性も必要ですが、当事者となった従業員やその管理者・同僚が心得ておくとよい対応方法について、ご紹介しておきます。

 

2-2-1. 直面している従業員

顧客と接点を持つ全ての従業員がカスハラの当事者となりうる可能性があります。
業種業態、発生のきっかけにもよって異なりますが、直面した従業員は以下の対応を心掛けましょう。

 

1.きっかけが自分・自社の落ち度であれば、素直に謝罪する

2.感情的にならずに冷静に対応する

3.話をさえぎらずに聞き、反論はしない

4.無理にその場で解決せず、折り返しの連絡とさせてもらう

5.折り返しの連絡先と合わせ、先方の主張・経緯などのメモを取る

金銭目的等の意図的なものでなければ、適切な対応を通じて「カスハラ」に発展せずに解決する可能性も十分にあります。
また意図的なものであればなおさら現場での解決には限界がありますので、自社のガイドラインに従って、日を改めて顧客担当者等から連絡する旨を伝え、間を置く必要があります。。さらに防犯カメラ等の装置などが設置されている場所あれば、カメラに写りやすい場所で話をするなどの工夫も必要です。

 
2-2-2. 管理者・同僚

訪問営業などでなければ、顧客と接する場所には複数の従業員がいる場合が多く、規模によっては管理者がいる場合もあります。カスハラの発生時、管理者や他の従業員はどのように対応すればよいでしょうか。 これもケースバイケースですが、以下のような観点からガイドラインを作成しておくことをお薦めします。

 

1. 慌てて飛び込まず、状況を見定める

2. 当事者以上に、ガイドラインに沿った冷静な対応を心掛ける

3. 担当者の経験値などに応じてタイミングを見て引き取る事も必要

4. 数で威圧しているような印象を与えないよう注意をはらう

しばしば、割って入った管理者や同僚も感情的になってしまう場合があるようです。カスハラ対策は冷静さが肝心ですので、管理者や同僚は直接の当事者でない強みを最大限に活かしながらの対応に徹してください。

 
豆知識
カスタマーハラスメント-3
カスタマーハラスメント-3

2018年以前の過去10年間において、厚生労働省が認定したカスハラによる 従業員等の労災認定が78件、そのうち自殺に至った例が24名あったとの報告 がなされています。決して少なくない数ですが、このような例は氷山の一角 に過ぎないものと思われます。背景にはカスハラを行う側の社会的背景 (ストレス社会での承認欲求など)、受ける側の背景(過剰サービスや効率 優先、人手不足など)があると言われ、これらの要因はすぐにはなくなりそう もありません。 社会問題化してきた「カスハラ」。厚労省の法的な面からの対応整備の進展に 期待しながらも、企業は自社の努力によって、会社も従業員も守っていく対策が欠かせません。

 
2-3. 【局面3】事後の対応

最後に、残念ながらカスハラ被害が発生してしまった場合、特に現場での対応で収まらずに本部等の専門の担当部署に迄至った場合の対応についてまとめておきます。

 
2-3-1. 事実確認、情報収集と再発防止

カスハラは基本的にはセクハラやマタハラ、パワハラに通じるハラスメントであり、男女雇用機会均等法やパワハラ防止法から求められている事業主の対応に則り対応しましょう。 そのためにはパワハラ防止法等に定める必要な体制整備を行なった上で、再発防止に務めることになります。

【パワハラ防止法による被害を受けた労働者へのケアや再発防止】
 ①事実関係の迅速かつ正確な確認
 ②事実関係に基づく被害者に対する適正な配慮措置
 ③事実関係に基づく行為者に対する適正な配慮措置
 ④再発防止に向けた措置

 

2-3-2. カスハラ加害者を含む外部への対応

カスハラは加害者が外部であるため、加害者への対応は、社内でのハラスメントと異なり社内指示や処分ではなく、申し入れや法的な措置となることが一般的です。また場合によっては加害者との間での対応のみにとどまらず、発生したカスハラの概要や自社のカスハラへの断固たる姿勢等を対外的に発信することも検討する必要があります。

 
3. まとめ

顧客からの適切なクレームは自社の商品やサービスについて、気付いていなかった欠点を知る重要な情報であり、その欠点で迷惑を掛けたり、不快な思いをさせた顧客に謝罪したり、生じた損失について補償するのは事業者として当然のことです。心理的負担を乗り越えて伝えてくれた顧客には感謝すべきとさえも言えます。

一方で、正当なクレームの範囲を超えて過剰な要求によって、当事者となった従業員に多大なストレスを与えたり、企業そのもののブランドさえも傷つけてしまうのが「カスハラ」です。カスハラは社会の変化を背景に増加傾向にあり、無視できないものとなってきています。

今や、顧客との接点を持つ企業は、自社と従業員を守るための「カスハラ対策」を避けて通れなくなっています。事前の対策、万が一発生した時の対策、事後の対策をあらかじめ想定し、自社なりのガイドラインを定めるなど、是非この機会に備えを進めてください。

 

ビジネスでの調査なら総合調査のトクチョーへ

ビジネスでの調査なら総合調査のトクチョーへ

1965年創業の信頼と実績。
総合調査会社として、企業経営やビジネスでの意思決定に必要な、データベースからは得られない情報をお届けしています。

状況に応じた 多面的な調査により、取引先や競合企業についてより充実した理解のためにご利用いただけます。

また、 労務管理にまつわる社員の調査、クレーマーや不審人物の素性調査等もお気軽にご相談ください。

1965年創業の信頼と実績。
総合調査会社として、企業経営やビジネスでの意思決定に必要な、データベースからは得られない情報をお届けしています。

状況に応じた 多面的な調査により、取引先や競合企業についてより充実した理解のためにご利用いただけます。

また、 労務管理にまつわる社員の調査、クレーマーや不審人物の素性調査等もお気軽にご相談ください。

SPRING広告

SPRING広告