サステイナブルな企業を実現!その為に行うESG経営のポイント

2019/08/29

ESG経営

ESG経営とは、持続可能な成長を実現するために近年注目されている考え方です。行政やマーケットで求められているだけでなく、消費者のブランド選好にも影響を与えており、経営者にとって無視できない課題になりつつあります。本記事ではESGの意味や目的、取り組みのメリット、事例を解説します。

 
1. ESGとは

企業の中長期的な成長のために重要なESGという考え方を実際の事業活動に活かすためには、用語の意味を知るだけでなく、その本質や社会的に注目されてきた背景を知ることが大切です。
まずは、ESGの意味や本質的な目的、重要視されている社会的背景について解説していきましょう。
 

1-1. 「ESG」という言葉の意味

ESGとは、企業の財務情報に現れない経営方針や、マーケットにおける投資方針の基礎となるもので、以下3つの頭文字から作られた言葉です。

・Environment(環境)
・Social(社会)
・Governance(企業統治)


従来であれば、企業経営とは財務状況や事業業績、株主還元政策など、直接的なステークホルダー (利害関係者) に関する指標が評価の対象でした。そのため、企業経営者は業績向上に努め、従業員の能力を活かし、株主に適切な還元を行っていれば、とりあえずは問題ないとされていました。

しかし、21世紀に入ってから状況は変わりつつあります。従来は企業で働く従業員や株主といった直接的な関係者と利益を共有していれば許されていましたが、現在では企業の社会的な役割も求められるようになりました。

例えば、ESGの「環境」とは、エネルギーや環境問題を指し、二酸化炭素の排出を抑え、環境汚染につながるような工場を抱えている場合はクリーン化することが好ましいとされます。また、「社会」とは、ダイバーシティ (多様性) や、働き方改革を指し、性別や障害の有無を問わず多くの人が働きやすい職場作りが評価されるのです。さらに「企業統治」とは、上場企業として社会に広く説明責任を果たし、経営の透明性を高める努力が求められています。

 
1-2. ESG経営の本質的な目的

企業経営に取り入れられつつあるESGという概念ですが、グローバル規模で政界やマーケット関係者が推進しようとする本質的な目的には「持続可能な社会の成長」があります。

20世紀型の産業は、大量生産・大量消費社会の実現を支えてきました。
その中で人々の暮らしを改善し、豊かさを実現したという功績があったのは間違いありません。
しかし、その裏では、プラスチックや化学物質による環境汚染、二酸化炭素の排出、労働問題などをはじめ、さまざまな問題を生み出してきたことも事実です。
このような20世紀型の産業のあり方では、持続可能な社会の実現は難しく、企業の成長に伴って大きな犠牲を払い続けることになります。

ESG経営の本質的な目的は、このようなトラブルを回避して、より広い視点で成長を目指すことです。ESGという物差しで計ると、例えば企業活動に直接的に関わっていなくても、地球環境や社会性という観点から次世代まで安心して持続できるための貢献を求められます。

ESG経営では、経営者がよりよい経営を宣言するだけでは十分ではなく、政治やマーケットからも具体的な取り組みをチェックされます。例えば、パリ協定に代表される環境問題をテーマにした関係者会議や、G20などのサミット、あるいは各国の政治レベルでも、環境規制や労働環境の整備が課題になり、各企業に対応を迫ることがあります。
また、市場では、ISS (議決権行使助言会社) や機関投資家大手が、経営の意思決定の透明性や社外取締役の比率などの点で、投資先企業に対応を求めるケースもあります。機関投資家からの評価向上が資金調達に有利に働くため、機関投資家がスコアリングを投資基準に取り入れる、あるいは「ESGを重視する」と明言するだけでも企業が間接的に対応を求められるようになってきています。
このように、社会のあちらこちらから対応を迫られるほど影響力が大きいのがESGです。

 
1-3. ESGが重要視される社会的背景

現在ESGが重視されている社会的背景には、社会問題の顕在化や価値観の多様化が挙げられます。

1つ目の社会問題の顕在化については、数ある環境問題や社会問題が世界中の人々の生活に与える影響が徐々に判明し、それに伴って人々が問題への関心を高めてきました。
例えば、二酸化炭素排出や地球温暖化問題は、気候変動で生態系や人間の生活に影響するほか、海水面が上昇することで臨海都市の存続が危ぶまれる可能性があるというリスクが認識され始めています。
つまり、消費者からすれば「企業は効率的な生産活動によって高品質な製品を安価に大量生産してくれればよい」という価値観だったものが、変化を迎えているのです。

仮に競争や利益の追求だけが過度に目的化されてしまうと、コストが安いからと言って廃棄問題を無視して環境に悪影響のあるプラスチック素材を使ったり、人件費を抑えるために従業員に不健康な労働環境で低賃金労働をさせたりする可能性もあります。また、購買力が強い事実を悪用して「フェアトレード」を放棄し、仕入先企業に不利な条件を迫るかもしれません。消費者はこのような企業活動の危険性を認識しているのです。こうした流れを受け、2015年の国連サミットで採択されたSDGs (持続可能な開発目標) も、ESGへの社会的関心がさらに高まった要素と言えるでしょう。日本の企業もSDGsを念頭に置きESG経営を実践することで、持続的な発展に貢献しています。

2つ目の価値観の多様化については、ミレニアル世代を中心に大量消費という従来の価値観が薄れ、むしろ社会的に意義がある消費を志向するように変化してきました。例えば、消費の意思決定では、その製品の良し悪しだけでなく、その企業が行っている環境への取り組みや社会的責任など、社会問題への貢献を意識しています。あるブランドが安くて高品質のものであるという事実に加えて、さらにエコロジーの取り組みをしているという事実も、同じようにブランド価値を決める可能性があると言えます。

つまり、消費とはただ物理的な物を入手する行為ではなく、自分の価値観を反映するための体験ということで、購買行為に精神的な豊かさを追求する志向が強まっている傾向があるのです。そこで重視されるのは安さや品質だけでなく、社会性や環境志向と言ったESGに強く関わるものです。

 
2. ESG経営のメリット
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ESG経営は単なる外部に向けたアピールではなく、財務戦略の根幹に関わる資金調達や金融機関からの融資にも影響します。また、取引先との信頼関係構築や従業員の動機付けにも影響する重要な方針です。ESG経営に取り組むことで得られるメリットを解説します。

 
2-1. 機関投資家からの評価向上により資金調達に有利に働く

ESG経営を実践していれば、機関投資家からの評価も向上し、資金調達に有利に働く可能性があります。

まず、1つ目の理由として、環境と社会的な観点については、企業がしっかり取り組んでいる姿勢を内外にアピールすることで、ブランド価値が向上していくことが期待されます。消費者はブランド価値を判断する際に、製品・サービスの良し悪しや企業からのプロモーションを鵜呑みにするだけではありません。地球環境や人権などに配慮した商品の購入・利用の潮流が世界的に加速する中、ESG経営への取り組みがブランド価値の向上とともに業績への好影響が期待されます。おのずとマーケットからの評価にも有利に働きます。

また、もう1つの重大な理由として、多くの機関投資家は投資先企業のESGへの取り組みを重視するスコアリングを投資基準として採用しています。機関投資家が特に関心を持っているのはG、つまり企業統治への取り組みです。例えば、「経営の意思決定プロセスは明確か」「社外取締役など客観的な意見も取り入れているか」「取締役会には女性や外国人といった多様な人材を取り入れているか」といった取り組みが求められます。

2017年から金融庁はスチュワードシップ・コード (責任ある機関投資家の行動規範) の普及を目指して有識者検討会を開催していますが、このことからも機関投資家がESGを取り入れる環境が整ってきていることがわかります。企業としてはESG経営を掲げ実行することで機関投資家からの評価を上げ、株価政策にも有利に働く時代と言えるでしょう。

 
2-2. 金融機関からの融資判断に影響を与える

ESG経営は金融機関からの融資判断でプラスに影響する可能性があります。先述の通り、直接金融ではスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードが普及しつつあり、そして機関投資家は積極的にESGを軸とした評価指針を掲げています。それだけでなく、間接金融の世界であっても金融機関としてESGの観点を取り入れようという動きがあるのです。

例えば、2018年7月には環境省のESG金融懇談会が開かれ、提言書にはESG金融の拡大が盛り込まれました。この背景には、金融機関が取引先へESG経営を促すことで取引先の持続可能性を高め、その結果として金融機関そのものの持続性も高めたいという狙いがあります。
つまり、「企業が経営の透明性を高めたり、環境に配慮した事業を行ったり、社会性がある取り組みを行うことが市場評価だけでなく企業の存続につながるはずだ」という、行政と金融機関の認識が現れたものだと考えることができるでしょう。企業としては財務戦略を考える際にもESGの視点は欠かせないのです。

 
2-3. 取引先関係先等からの評価向上による事業への好影響

ESG経営の取り組みは取引先や関係先など、広い意味でのステークホルダーからの評価につながり、その結果として事業によい影響を及ぼす可能性があります。消費者や投資家、行政からもESG経営への関心が高まっている今、企業は自社だけでなく関係機関であってもモラル性を求められるようになってきました。

例えば、メーカー企業で自社は優良な取り組みを行っており、仕入れ努力でコスト削減に成功していたとしても、仕入先企業が過酷な労働環境で、なおかつ酷い低賃金という事実が発覚すれば、消費者から敬遠されてしまう可能性があります。悪評が飛び火することを避けるために別の仕入先や小売店などの取引先が手を引いていくリスクもあるでしょう。
一方、自社だけでなく、周辺の取引先もESG経営を実践している場合は、別の取引先からの信頼性も高まり、持続的に良好な関係を維持していける可能性があるでしょう。その結果、事業も安定し業績にもよい影響を及ぼす可能性があります。

 
2-4. 社会的評価向上による社員のモチベーションアップ

ESG経営を実践することで、社会的評価が向上し、社員のモチベーション向上につながる可能性があります。

ESGを実践すれば、環境問題にも関心を持って会社として可能な施策を行い、また社会的な役割も果たしているという事実を内外にアピールすることになります。当然、ESG経営を行っていなかった時と比較して社会からの評価は向上し、クリーンな企業ブランドの構築につながるでしょう。
企業の従業員は、社会的に意義ある企業の一員であるという点が動機付けになり、企業への貢献も向上する可能性があります。さらに、それを見て企業へ興味を持った優秀な人材を採用できるという好循環になる可能性もあるのです。

ESGのSには人的資源の意味も含まれています。例えば、働き方改革をはじめとする労働環境の整備は、従業員の健康やワーク・ライフ・バランスにも配慮したもので、社会的に意義ある活動の一部と言うことが可能です。ITが高度化するにつれて、大規模な有形資産や資本よりも、人的資本こそが経営の鍵を握るケースが増えています。ESG経営は人材によい環境を提供するという点でも、期待できるのです。

 
3. ESGに取り組む企業の事例紹介

ESGに取り組む企業は多いですが、その企業の事業内容によって果たすべき役割はさまざまです。
ここでは、消費財、機械、輸送インフラの企業の事例を紹介します。

 
3-1. 花王
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花王は国内有数の消費財メーカーとして、従来からESGに取り組んできた先進企業です。

特に環境に関しては取り組みが充実しており、「水」「CO2」「生物多様性」といった重要な項目について、花王の方針や体制、中長期目標と実績を定性的・定量的に公開しています。環境に関する情報公開は一般的な水準よりも非常に進んでおり、ESG投資のための株価指数「FTSE4Good Index Series」「FTSE Blossom Japan Index」などの構成銘柄に選ばれました。また、2030年目標には脱炭素化やごみゼロなどを盛り込むなど、取り組みのレベルも高いものとなっています。

社会については、ユニバーサルデザインや人権、ダイバーシティといった取り組みも重点領域として掲げています。また消費者だけでなく社員とのコミュニケーションもESGの取り組みとして掲げるなど、内外にオープンな方針です。

企業統治については、花王は指名委員会等設置会社ではありませんが、独自に「選任審査委員会」や「報酬諮問委員会」を設置することで役員人事や報酬プロセスの透明化を図っています。

 
3-2. キヤノン

キヤノンは光学技術を武器にグローバルを舞台に業界を牽引する企業ですが、独自のESGの取り組みが多数あります。環境について、キヤノンはオフィス向け複合機が主力事業のひとつですが、設計からリサイクルまで環境負荷を抑える取り組みや、省エネ・省資源の製品開発を行って環境保護を打ち出しています。

キヤノンはモノづくりで世に貢献するメーカーとして、社会的な役割も意識しています。例えば、資源の確保や廃棄問題に対してリサイクルを推進し、その一環としてトナーのカートリッジ回収に取り組んでいるのは従来からの強みです。また、高齢化を迎えている今の日本で、健康問題が加速していくことに対して医療分野を強化する経営方針も明確にしています。

キヤノンの「CSR報告書2018」では花王と同じくESG投資のための株価指数「FTSE Blossom Japan Index」に選出されたことを報告しています。また、地震や火山の噴火といった自然災害に対してドローンを活用した災害救援活動や避難補助を行う構想も報告しています。

一方、キヤノンは健全なコーポレートガバナンスの確立を目指しています。しかし、過去には権限の一極集中への懸念を内外から指摘され、また社外取締役も置かれていなかったことから、ESGの企業統治の面で不安がありました。キヤノンは、2014年には社外取締役を選任し、2019年4月段階では独立社外監査約3名を含む監査役会が独立社外取締役2名を含む取締役会を監査しています。また、監査役会は経営戦略会議も監査し、代表取締役は取締役会が選定・承認・解職を行うことができる体制となっています。こうした仕組みによって企業統治の健全性が保たれています。

 
3-3. JR東日本

JR東日本は上場企業であり、そして首都圏の鉄道運送網を支える重要なインフラとしてESG経営に力を入れています。

環境については、1992年という早い段階から「エコロジー推進活動の基本理念・基本方針」を定め、全社的な取り組みを行ってきました。その結果、運行の遅れが20秒でただけでも謝罪をするほど、定時運行性については世界でも突出した水準を保ち続けています。また、日本都市学会では2017年に「市街地形状と鉄道網の連携度に関する都市比較」と題して、東京・大阪・名古屋のいずれも鉄道密度が高いものの、地域との連携度がミュンヘンやウィーン、ロンドンと並んでトップクラスに位置しているとする論文も発表されています。さらに、2018年7月時点では総合企画本部担当の副社長の直下にエコロジー推進委員会を設置し、地球温暖化防止や資源循環活動を推進しています。

社会については、首都圏の1千万人以上の生活を支えるインフラ企業であることから、特に安全かつ円滑な鉄道運行こそがESGの根幹と位置付け、障害防止や情報発信の仕組みを整備しています。

企業統治については、企業経営の透明性を高めるため毎年「サステナビリティレポート」を発行し、取締役をはじめとした組織構造や人事、その理由までを詳細にわたって公開しています。また、このレポートはサステナビリティレポートの基準である「GRIスタンダード」の中核 (Core) に準拠しています。

 
4. まとめ

ESG経営は、社会的に関心が高まっており、企業にはプレッシャーもあります。ただし、ESGは義務感で行うべきではありません。仮に経営者が投融資の評価基準や、人気投票の材料として考えていると取り組みも中途半端になり、経営リソースの浪費や内外の不信感を招くでしょう。ESGの本質を見極め、自社にふさわしい取り組みを実現していくことが求められています。 

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