架空取引の具体的事例と予防措置・実態解明方法の基本を解説します

2019/08/29

架空取引

近年、企業のコンプライアンス (法令遵守) への期待と要求がますます高まっている一方で、毎年のように企業の不正や不祥事が大きく取り上げられています。この不正や不祥事の発覚は上場企業にも見られる重篤な問題です。そこで、今回は企業の不正取引である架空取引の事例と予防措置、実態解明について解説していきます。

 
1. 架空取引とは
1-1. 「架空取引」という言葉の意味

架空取引は取引の実態や実効性がないのに、取引を行ったように見せかける会計上の処理を指します。例えば、存在しないのに存在したように見せる架空計上、実際の額を多く計上する水増し (過大) 計上、架空支払い (振り出し/空リース)、架空契約、不必要な循環取引などがあり、資金繰りや決済代金の着服・流用、粉飾決算などを目的とすることが多い不正取引です。架空取引には当事者の間で売買を往復させる循環取引の場合と、取引の間に第三者を介入させる取引があります。後者の場合、第三者に手形払いなどの金融機能の役割を担わせることが多く、最後は第三者の不良債権が膨らむというケースが多く見られます。

 
1-2. 架空取引と「循環取引」

循環取引は架空取引の一形態で、特に法律上または会計上の定義はありません。取引の流れに注目すると、一連の取引において最初の売主と最後の買主が同一企業となる取引と説明することができます。しかし、実際は売買が一巡する取引すべてが違法となるわけではありません。例えばA社が自社の商品をB社に販売し、B社がC社に転売した時点で商品の在庫不足が分かり、他社に納品するためにA社がC社から自社製品を買い戻したとすると取引自体に問題はなく、通常は問題のない取引と見なされます。しかし、東芝が半完成品を外部に売却し、加工されたものを買い戻した取引が粉飾決算と見なされたケースもあり、内容によっては通常の取引として見なされないケースもあります。

一方で、A社が業績を粉飾するために、B社とC社に協力を持ち掛けてマージンを約束し、B社に自社商品を販売、B社とC社がそれぞれマージンを加えて最後にA社に転売するという取引を繰り返すケースがあります。A社は資金不足に陥らないために新たに循環取引の協力相手を見つけるなどして資金を調達する必要があり、いずれは破綻に陥ります。
問題となる循環取引は、実際の需要がないエンドユーザー (製品などの使用者) が存在しない経済合理性のない取引であると言えます。自社製品を買い戻す取引は極めて稀なケースであり、ここでは循環取引は架空取引のひとつと捉えて解説していきます。

 
1-3. 架空取引は何のためにおこなわれるのか

架空取引はさまざまな目的を持って行われます。
ここでは架空取引の代表的な目的について紹介します。

① 信用度向上
業績が好調であること、売上が安定しているように見せかけるため、取引実態のない売上の会計処理を行い、取引先や株主に対する信用度を高めようとします。業績が好調であれば融資を受けやすくなるなど、企業活動への好影響が期待できます。

② 資金調達
資金調達における架空取引では、当座の資金を調達するために関係企業に持ち掛けて、架空の取引により支払手形を受け取り、手形を割り引いて現金化する方法が代表的です。資金調達によって倒産を回避します。

③ 粉飾決算(ノルマ達成)
決算報告書の数字が芳しくない場合、中小企業は銀行融資を受けること、上場企業は株価操作や経営責任を逃れることを目的として、売上や利益を水増しする粉飾決算を行います。また、利益を確保して成長していることを示し、配当を確保する目的で行われる場合もあります。

④ 利益圧縮
業績が好調な会社が支払う法人税額を少しでも下げるため、架空の経費を計上し、利益を減らして圧縮しようとします。脱税に該当する行為です。

⑤ 金銭搾取目的
会社の資金の横領や流用など金銭的搾取を目的とします。例えば発注を水増しして、会社の支払代金の差額を業者から回収して着服するなどの不正行為があります。

⑥ 礼金目的
循環取引の協力を持ち掛けられた企業の担当者は、首謀企業の担当者から礼金を受け取ることを目的として循環取引に協力することがあります。

 
1-4. 架空取引が発生する状況

「心理的な動機」「不正が可能な仕組み」「大義名分」の条件が揃うと、個人または会社ぐるみで架空取引が発生してしまう可能性が高くなります。ここではこれらの要件について個別に紹介します。

①「心理的な動機」
架空取引に手を染める「心理的な動機」とは、個人では給与やポストなど会社での待遇や処遇への不満が挙げられます。組織では企業間の厳しい競争や、親会社からのノルマ、売上目標の未達成、業績の悪化、取引先からの利益供与などが考えられます。同様に個人のノルマ/業績達成からくる欲やプレッシャーも心理的な動機となり得ます。

②「不正が可能な仕組み」
通常、取引は複数人でチェックを行うことが常ですが、会社の組織体制が複雑で内部統制が取れていない、社内で複数人による確認体制が取られていない、海外事業所など本社の管理体制が届かない部署にあるなど、不正が発覚しにくい環境が不正を誘発します。その他、企業理念やモラルに対する社員の理解が不十分であったり、株価や業績を最優先したりなどコンプライアンスを疎かにする企業文化や業界全体で不適切な取引が習慣化しているケースも考えられます。

③「大義名分」
「大義名分」も架空取引の発生に寄与します。架空取引によって企業の倒産が回避できたり、取引先が存続できたりする場合は、社員や家族を救うことを理由に不正を行ってしまう可能性が高くなります。

以上の三要件は不正発生に大きく寄与します。例えば、個人の業績をよく見せるために循環取引を仕掛けようとしても、決済ごとに監査を行う部署が別で設けられている会社では不正を起こすことはできません。また、不正ができる環境があったとしても心理的な動機がなければ、不正に至ることはないでしょう。そして、不正を行うことで取引先が助かる、自分の会社が助かるなど、大義名分があると心理的動機も相まって行動に起こしてしまいやすくなります。これは大義名分に不正を行動に起こすハードルを下げる働きがあるからです。これらの要件が揃い不正が発生する状況が整うと、不正の発生率は上昇します。

 
2. 架空取引に用いられる手法・仕組み

実際に架空取引が行われた具体的事例を参考に、どのような手法や仕組み (スキーム) が用いられているのかを紹介します。

 
2-1. 売掛金を架空計上する
架空取引-1架空取引-1

会社の規模が大きくなるほど、取引の数が膨大になるため、売掛金の架空計上は行いやすく、露見しにくくなります。数千、数万の取引の実態を1件1件チェックすることは監査法人でも難しいため、架空売上の手続きは比較的簡単に行うことが可能です。例えば、小売業の会社なら契約書と請求書を作成し、発送伝票を作るだけで架空取引による売上を計上することができます。
あるスーパーマーケットの子会社 (旅行業) の事例では、架空計上した売掛金を他の売掛金に付替えたり、仮払金や立替金などの名目を使って出金した資金で消し込んだりして、回収できない売掛金が表面化しないようにしていました。別の旅行会社でも同様の手口を使っており、さらに架空計上した売掛金の明細の報告を求められないように金額を細分化していました。

 
2-2. 融通手形を振り出す

銀行など金融機関から融資を受けられず、資金繰りに困った相手に対して融通する形で振り出すことから、実際の商取引を行わずに振り出される商業手形を融通手形と呼びます。
資金難の知人を助けるために融通手形の振り出しが行われるケースもありますが、多くは資金繰りが苦しい企業同士が互いに融通手形を振り出し合い、金融機関で換金するか裏書きして支払先に譲渡するなど、当座の運転資金の調達に使われるケースが大半を占めます。
例えば、業務用機器の製造販売を行っている企業が赤字を計上して民事再生を申請した結果、融通手形の存在が発覚した事例では、資金繰りの悪化から融通手形によって運転資金を確保していました。

 
2-3. 売上を立てて製品は倉庫に隠す

会計上で架空売上を立てて、販売しているはずの製品を外部倉庫などに隠し、在庫がバレないようにする手法です。在庫調整は自社の会計処理で簡単に行えるため、売上の水増しによく利用されます。投資家からの出資を得るため、高い成長性を演出しようとするベンチャー企業に多いという指摘があります。ある産業用の太陽光発電システム施工の子会社は施工を行っていないのに、売上金額1億円を計上していました。この事例では太陽光発電システム設備に使用する部材を出荷せず、外部倉庫に保管していたということです。

 
2-4. 業務委託契約をするが実際に仕事の提供はしない

業務委託契約とは主に請負契約や委任契約を指します。しかし、実態がない請負契約や委任契約をする架空取引がIT業界に多く発生しています。通常、請負契約は成果物と納期が決められており、発注者は成果物が期日通りに納品されれば請負人に請負額を支払います。委託契約は相手に業務の遂行を委任する契約で、業務全体が対価となります。請負契約の架空取引はグループ会社同士で行うことが可能です。例えば、A社が客先からシステムの一部にA社製品を組み込む作業の請負契約をしたとします。A社はグループ企業のB社に、客先での組み込み作業を含む契約の一部を請負契約として発注します。B社は再び、A社と請負契約を結び、客先での組み込み作業を発注します。この場合、A社からB社に発注した客先での組み込み作業が実態のない取引にあたります。A社、B社共に架空売上を計上しますが、共存関係にあるので表面化しにくい側面があります。

※事例の詳細については以下のリンクを参照してください。
http://www.kfs.go.jp/service/JP/84/12/index.html
(グループ法人に対する業務委託料は資金援助を仮装して計上されたものとされた事例)

 
2-5. 同じ製品 (または品番などだけ異なるもの) を業者間で繰り返し取引する

水産物など仕入期 (漁期) と販売期のずれを埋めるため、業者が仕入れた商品を買い取り、一定期間経過後に売り戻す「預かり在庫取引」によって、同じ商品を業者間で繰り返し取引することが可能になります。そして、市場価格を大幅に上回る価格で購入し、売り戻すことで収益を水増しすることができます。仕入先では商品の在庫を抱えず、確実に販売できるメリットがあり、業者間に持ちつ持たれつの貸し借りの関係性が作られるため、長期にわたって不正取引が継続されます。

※事例の詳細については以下のリンクを参照してください。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG24047_U1A120C1CR8000/

 
3. 架空取引への対処法~予防措置から実態解明・事後対応まで~
架空取引-2 架空取引-2

架空取引などの不正の発見が遅れ、長期化するほど企業活動への影響が拡大し、経済的損失だけでなく、社会的評価が低下します。不正を働いた個人だけでなく、企業にも刑事責任による罰金が科せられ、被害企業や株主から賠償請求を求められる場合もあります。そのため、これらのリスクの対処方法を検討する必要があります。ここでは架空取引を発生させないための予防措置、架空取引が起きた場合の実態解明、事後対応までご紹介します。

 
3-1. 予防措置(発生させない・巻き込まれない)

発生させないためには、1-4.で紹介した心理的動機、不正が可能な仕組み、大義名分への対策が必要です。

 
3-1-1. 発生させないための対策

① 心理的動機の排除
従業員が感じている業務上の圧力を緩和することが大切です。「チャレンジ」や「売上倍増」などの目標を強制しない経営者・幹部のモラル醸成が求められます。その他、従業員の状況把握のために、定期的に面談を行うのもよいでしょう。

② 不正が可能な仕組みの是正
早期に架空取引などの不正を発見するための予防措置のひとつに内部通報窓口の運用があります。制度として利用する場合は通報者が不利益を被ることがないように取り計らうことが重要です。また、内部通報者は公益通報者保護法により守られ、法的にも不利益を被ることはないと社内に周知することも大切です。
また、伝票や会計上の取引、商品やサービスの引き渡し状況を照合し、実需があるのかどうか、不自然な取引がないかの習慣的なチェックを厳格に行います。そして、決済の担当者を特定の個人に集中させるのではなく、業務に応じて複数の担当者に分散させる、または相互確認ができるような決済システムに変更し、個人による着服や横領のリスクを軽減します。
その他、内部監査は不正を発見する目的でモニタリングを行うのも効果的です。通常の会計監査が勘定別の取引や勘定残高などの妥当性を個別に検討するのに対して、内部監査は不正の疑いがある特定の取引の、一連の流れを追跡します。発注から代金回収までの取引全体のモニタリングを強化することで、表面化しづらい不正を見つけることができます。

③ 大義名分の排除の緩和
不正を行うものが正しいと感じれば大義名分になり得るため、完全に防止するのは難しいと言えます。しかし、コンプライアンス教育を行うなどして、不正には大義名分がないことを教育すると効果があると考えられます。
 

3-1-2. 巻き込まれないための対策

巻き込まれないためには、不正を許さない従業員の倫理観の高さを身につけさせるなどの方法しかありません。その一方で、不正が可能な仕組みの是正は大切なポイントです。
 

① 取引の妥当性のチェック
取引数量や金額に矛盾がないか、取引形態や取扱商品、相手企業の信用力など取引の妥当性をチェックします。事業内容とは関係のない商品を販売しているなど、不自然な取引が散見される場合は注意が必要です。
 

② 新規取引先や取扱商品のチェック
新規で取引する相手や商品には特に注意が必要です。納品書での代金支払いはリスクがあるため、売先から物品受領書を受け取るようにします。エンドユーザーの物品受領書しか取得できない場合は、代金を先払いにするなどのリスク回避が求められます。
 

③ 売先・仕入先の人間関係をチェック
日頃取引がある売先・仕入先を訪問し、経営陣とも直接面談の機会を持つようにして人間関係をチェックします。売先と仕入先が結託することはないか、相手先の担当者が独断で行っている取引ではないかなど調べることが目的です。異変に気づいた場合は上司や関係部署と相談するように社内で徹底します。
 

3-2. 実態解明の基本(するべきアクション)

内部通報により架空取引が発覚した場合は、内部調査委員会または会社から独立した専門家による第三者委員会を立ち上げ、以下のような実態解明に取り組みます。
まずは、帳票類の徹底的なチェックを行います。不正が疑われる取引の配送伝票や請求書、出張申請書など帳票類を徹底的に調査し、不正の事実を明らかにします。そして、在庫数量の不自然な増減がないか、サービス提供の有無など事実確認を十分に行い、不正につながる実態がないか在庫・サービス提供の事実確認を行います。また、同時に証拠となる重要資料やデータが改ざん、隠滅されないように安全な場所に移して保管します。
これらの実態調査の過程では、不正に関与した疑いのある人物が証拠資料の廃棄や隠滅を行うリスクがあるので、調査が始まったことを知られないように細心の注意を払い、行動を監視します。さらに状況を把握するため、社内の関係部署などで聞き取りを行い、職場環境や不正が行われる原因などについて調査します。他にも法的証拠を見つけるための鑑識調査や情報解析に伴う技術や手順に従ってPCのフォレンジック調査を実施します。PCメールなどの重要なデータが膨大にある場合、必要な情報データを特定し、抹消や改ざんがされていないか、証拠としての信用性を確保します。

 
3-3. 事後対応(影響の最小化・再発防止)

架空取引などの不正が起きてしまった後は徹底した調査による結果を報告し、取引先や株主などへの影響を最小化させ、再発防止策を講じることが必要になります。
第一に、労務アクションがあります。不正に関わった社員や上司、役員に対して懲戒解雇や減給などの処分を行います。この際、不正への関与が主体的なのか従属的なのか、その実行に情状酌量の余地があるのか、他の社員への影響はどの程度なのかなどを慎重に検討し処分を決定しなければなりません。これらの差配を誤ると、不当解雇で訴えられるなど訴訟リスクを背負うことになりかねません。
第二に、決算期を超えている (有価証券報告書に記載後であれば) 上場企業や証券会社や金融機関であれば金融庁など関係省庁への報告・届出を行います。なお、金融庁には公益通報窓口及び相談窓口も設置されているので、利用することができます。粉飾決算などを行っていた場合は、税務署に修正申告をする必要があります。修正せずに放置し、税務署に発覚すると懲罰的な税も課せられるため、速やかに修正申告を行うことが肝要です。
第三に、対外対応を行います。企業のオフィシャルサイトに経緯を詳細に説明する文書を開示し、プレスリリースを打つなど社外に情報を開示します。必要に応じて記者会見も開き、誠実に対応し、再発防止への決意も表明します。

 
4. まとめ

架空取引が企業に与えるダメージは計り知れません。企業の健全な事業活動の継続のためにも、不正を早期に発見するためには不正が発生する三要件を予防することが効果的です。内部通報窓口の運用や、内部監査のモニタリング強化など、不正ができてしまう仕組みの是正は大切です。また、関係省庁への対応やプレスリリースなど事後対応を速やかに行うことで、影響を最小化できます。まずは、強固な社内体制を築きあげるところからはじめましょう。 

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