5分でわかるFCPAとUKBA~海外での賄賂に気を付けて!

2019/10/15

FCPAとUKBA

海外と関連する事業を行う場合、実務の担当者や法務担当者は、贈収賄に関する規定についても熟知しておく必要があります。この記事では、贈収賄を禁止する内容を含む法律である米国のFCPAと英国のUKBAの概要と罰則を解説し、日本企業として行うべき対策、実際に罰則を受けた事例を紹介します。

 
1. FCPAとUKBAの基本情報

外国公務員などへの贈賄を規制する法律の代表的なものとして、米国にはFCPA、英国にはUKBAがあります。汚職事件や賄賂が横行していた米国は、1977年にFCPAを制定しました。その後、1992年にはOECD (経済協力開発機構) で、国際商取引での外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約が発効され、2003年には腐敗の防止に関する国連条約が採択されるなど、賄賂禁止規定や会計処理が厳格化されていきました。こうした世界的な流れに批准する形で2011年に英国でUKBAが施行されました。FCPAとUKBAは、いずれも贈賄行為や不正会計処理の防止を目的としていますが、適用対象や罰則規定に違いがあります。まずは、それぞれの米国のFCPAと英国のUKBAの概要を紹介していきます。

 
1-1. 米国の「FCPA」とは

FCPAは、1970年代に諸外国の公務員ないしは政治関係者と企業の間で違法な支払いがあった事実が判明したことを受けて制定された法律です。適用対象は米国企業だけでなく米国と関連するビジネスを行う事業者全般にわたり、日本企業も適用対象となっています。罰則は法人にも個人にも適用されることがあります。ここではFCPAの概要と罰則、適用対象制定に至った経緯などについて取り扱います。

 
1-1-1. 「FCPA」は腐敗行為防止法

FCPAとは、「The Foreign Corrupt Practices Act」の略語で、日本では「米国海外腐敗行為防止法」と呼ばれています。米国外の公務員に対して商業目的での贈賄行為を禁止する目的のもと、米国で1977年に制定された法律です。

FCPAは、大きく分けて贈賄禁止条項と会計処理・内部統制条項から構成されています。贈賄禁止条項とは、米国人や米国企業等が米国以外の政府関係者・公務員への賄賂を禁止する規定です。また、直接的な贈賄だけではなく、支払いの約束や申し入れ・承認を促すような行為は、たとえ間接的であっても行ってならないとされています。一方、会計処理・内部統制条項は、適正な会計処理と内部統制を求める規定で、資産の処分と取引を正確に記録したり、あるいは適切な内部会計統制システムを構築したりと適切な会計の記録・維持を義務づけています。

 
1-1-2. ロッキード事件などに端を発して制定された法律

FCPAの制定された1970年代は賄賂事件が多発していました。例えば、米ロッキード社と日本の政府関係者との間で、防衛用航空機の採用に関して大規模な収賄事件が発覚しましたし、米国で政治史上最大のスキャンダルとも言われるウォーターゲート事件も同時期に発生しています。米国では、政府機関や企業などにおいて、不正を防止しクリーンな運営をするための仕組み作りが求められました。

こうした一連の事件を踏まえているため、FCPAの贈賄禁止条項には、汚職や裏取引に頼らず公平かつ潔白なビジネスや政治行政を行う旨の規定が盛り込まれています。また、企業不正が絡む際には帳簿上にもなんらかの不正加工がされるという考えのもと、正確な会計処理や、それを支えるための内部統制についても規定されました。

 
1-1-3. 米国内だけでなく国外も対象

FCPAは、米国上場企業や、その他の米国企業、そして海外子会社を処罰の対象としていますが、米国内で贈賄行為が行われた場合は海外企業も処罰の対象になります。そのため、米国内で行われた米国企業と海外企業の贈賄行為はもちろん、例えば、米国企業の海外子会社が現地でのビジネスを円滑化するために現地行政関係者へ行った贈賄も摘発の対象です。

 
1-1-4. 刑事と民事で罰則規定がある

FCPAには、刑事と民事の罰則規定があります。
まず、贈賄禁止条項に違反した場合、刑事罰の罰則規定は、法人は200万ドル以下の罰金 (選択的刑事罰制度が適用された場合、250万ドル以下) が、個人には25万ドル以下の罰金と5年以下の懲役のいずれかまたはその両方が科されます。また、違法利益 (あるいは損失) を得ていた場合は「代替的罰金条項」が適用され、罰金の上限がなくなります。
会計処理条項違反の場合の罰則はより厳しく、法人は2500万ドル以下の罰金、個人は50万ドル以下の罰金と20年以下の懲役のいずれかまたはその両方が科されます。
一方、民事罰では、贈賄禁止条項に違反した法人、個人はともに1万ドル以下の罰金、会計処理条項違反した法人は5万ドルから50万ドル、個人は5000ドルから10万ドルの罰則と定められています。

 
1-1-5. ここ10年ほどの措置件数が多い

2000年代の前半まではFCPAによる措置が毎年10件前後で推移していましたが、2007年を境に飛躍的に件数が増加しています。ここ10年ほどは摘発件数が多くなっており、2019年現在まで30~50件前後で推移しています。

米国の現政権は、当初FCPAについて否定的な考えを持っていると考えられていました。トランプ大統領は当選前の2012年に、米国のビジネスに足かせをはめる「ひどい法律」と発言しており、SEC (米国証券取引委員会) 委員長のクレイトン氏 (2019年9月現在) が以前作成に関わったNYCBAレポートには、FCPAは米国企業等に不利な法律だという趣旨が展開されていたからです。
しかし、トランプ政権が発足した後もFCPAの摘発措置件数は増加しています。現政権の人物が過去のFCPAに否定的な発信をしたものの、現実の動きは相反しており、企業は慎重にならざるを得ないと言えるでしょう。
 

1-2. 英国の「UKBA」とは

UKBAは2011年に施行された贈収賄を禁止する法律です。FCPAよりも新しい法律で、さまざまな贈収賄の事例を受けて作成されたため、非常に厳格な基準を設けています。FCPAとの共通点もありますが、UKBA独自のルールもあるため、英国に直接的・間接的にかかわる企業は細心の注意が必要です。ここからはUKBAの概要や成立の経緯、罰則規定といった基本的な内容を紹介します。

 
1-2-1. 「UKBA」は贈収賄禁止法 (防止法)

UKBAは「UK Bribery Act」の略で、英国の贈収賄禁止法 (防止法) です。英国内で企業活動を行う企業が汚職を防止できなかった場合に、厳格な責任を負わせると定められています。贈賄を禁止するという基本的な趣旨は米国FCPAと共通していますが、UKBAには特有の規定があります。

例えば、FCPAは外国政府関係者・公務員への贈賄のみを対象としていますが、UKBAは公的機関や民間企業に対して区別なく適用され、私人に対して不正に利益供与等をする場合も贈収賄と見なされる可能性があるのです。
また、FCPAでは、適用対象から「ファシリテーション・ペイメント」と呼ばれる法令の根拠なく少額の金銭授受を行う行為を除外していますが、UKBAはその例外を設けていません。

 
1-2-2. 成立は2010年と比較的最近の法律

UKBAは2010年4月に成立し、翌年7月に施行されました。米国FCPAが1977年に制定されたことを考えると、UKBAは比較的新しい法律です。1997年の「国際商取引での外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」や、2003年の「腐敗の防止に関する国際連合条約」の採択など、世界的に基準が整備されてきています。英国では、これらの条約などに批准するために従来の制定法およびコモンローに由来する贈収賄罪を廃止し、その代替法として新しく制定されました。

 
1-2-3. 英国に子会社を置く外国企業も対象

英国に子会社を置く外国企業もUKBAの措置対象です。UKBAの適用範囲は「英国法に基づいて設立された法人」と定められているため、日本企業が英国法に従って現地に設立した子会社も適用対象とされます。

さらに注意が必要なのは、英国のどこかで事業の一部または全部を行う法人も適用範囲に含まれる点です。つまり、必ずしも英国に子会社を設立していないとしても、日本企業が英国に駐在事務所などを置いて実質的に事業活動を行っている場合は対象となり、現地で贈収賄行為が行われた場合は罰せられる可能性があります。

 
1-2-4. 違反すると罰金が科される可能性

UKBAには罰則規定があり、違反すると罰金が科される可能性があります。
罰則規定は、個人の場合「禁固10年以内および上限のない罰金」で、法人の場合は罰金のみです。
また、英国重大詐欺捜査局 (SFO) は、刑事手続上の起訴ではなく民事手続にもとづいて、個人や法人が不法に取得した利益を返還させることができます。
FCPAの規定が、贈賄禁止条項と会計処理条項違反の刑事罰ではそれぞれ200万ドル、2500万ドルと上限が設けられていることを踏まえると、UKBAはより高額な罰金を科される可能性があります。

罰金の計算方法はケースによって異なるうえ、当局の判断によるところが大きく、一概に述べることはできませんが、罰金に上限がないことや不法利益の返還を求められることを考えると、罰金額は数百億円単位の巨額に膨らむ可能性もあります。

 
1-2-5. 英国と関わる企業は今後注意が必要

UKBAは2010年に成立した法律で、FCPAと比較して適用事例が多いわけではありません。
ただし、実際に禁固刑の事例も出ており、日本企業も注意が必要です。

例えば、2015年12月、SFOはロンドンの資産管理コンサルタント会社が中東での贈賄を防がなかった件について有罪としました。また、それに関連してSFOの調査対象になることを知りながら、メッセージの入った携帯電話を破壊して証拠隠滅を図った元幹部は、禁固1年の判決が下されています。

これはロンドンに拠点を置く会社で中東地域を担当していた人物が実刑を受けた事例です。
このように英国とかかわる事業を行う場合は、直接的であれ間接的であれ、UKBAに抵触しないよう十分に注意する必要があります。
 

2. FCPA・UKBAが日本企業に適用された事例
FCPAとUKBA-1 FCPAとUKBA-1

FCPAが日本企業に適用された事例はいくつかあります。一方、UKBAは比較的新しいこともあり、2019年9月時点で日本企業に適用されたという事例は確認できません。そこで、ここではFCPAで措置を受けたケースを紹介します。

ナイジェリア政府への贈賄 (プラント建設大手企業のケース)
プラント建設のA社がナイジェリアでの工事受注の入札に際して、ナイジェリア政府関係者に1億ドル以上の贈賄を行ったとされる事件です。米国が直接関係していませんが、工事を受注する合弁企業の出資元の一つに米国企業が含まれており、これが共謀または幇助 (ほうじょ) に当たると判断されたため、FCPA違反として米当局から摘発されました。

この事件では1億8200万ドルという贈賄金額に対して、15億ドルにも上る罰金が科せられました。最終的には2011年米国司法省に2億1880万ドルを支払うことで和解となり、和解金を支払ったうえで2年間のコンプライアンス遵守が認められれば免訴という結果に至りました。

この事件は日本企業がナイジェリア政府への贈賄を行ったとされるケースですが、支払いについて米国の銀行を経由していたり、米国企業と合弁企業を立ち上げたりするなど、間接的に米国と関わっていました。FCPAは意外な観点から適用されるケースがあるため、日本企業は慎重に判断する必要があります。
 

3. FCPA・UKBAに対して日本企業はどのように注意・対応すべきか

FCPAやUKBAは贈収賄の禁止を主目的とする法律です。ただし、法律に抵触しないためには、贈収賄行為が起こらないように社内教育を徹底すればよいかというと、それだけでは十分とは言えません。
なぜなら、これらの法律には不明瞭な部分があり、規定に抵触するかどうかを企業側が正しく判断することが難しいからです。また、大規模かつグローバルな事業活動において、世界各国にはさまざまな慣習があり、逐一すべての行動を管理するのは現実的に困難でしょう。

例えば、FCPAは外国政治家・公務員への賄賂を禁止していますが、公務員の定義は広く、国立の大学病院のスタッフが外国公務員扱いされることもあります。他にも外国政府が出資している企業の幹部も、実質的に外国公務員とみなされる可能性もあります。そのため、一般的なガイドラインだけを頼りにするのではなく、過去の摘発事例も参考にしながら、ケースごとに担当者が地道にチェックしていく必要があります。

外国では、通関手続きをスムーズに行うための「ファシリテーション・ペイメント」といった支払いがいわば慣例化している国もあります。ほかにも、何かしらの形で利益を供与しなければ現地での手続きをスムーズに実施できないケースも存在します。ファシリテーション・ペイメントが慣例化している地域で実務を担う担当者が、白か黒かを個別に判断するのは難しいため、専用窓口で逐一確認できるようにすると効果的です。

そのほかにも、匿名で通報できるホットラインを設けるのも有効です。賄賂についてのコンプライアンス意識の高い社員の教育と同時に通報のホットラインを設けることで、賄賂を未然に防ぐことができる可能性が高くなります。また、通報されるかもしれないという環境を作ることで、コンプライアンスを意識した行動を促すことができます。
 

4. 中国と日本の贈収賄に関する規制

実務では、米英だけでなく、中国と日本国内の規制を知っておくことも大切です。
ここからは中国と日本について、贈収賄の取り締まりの状況を解説します。

 
4-1. 中国の商業賄賂に関する取り締まり
FCPAとUKBA-2 FCPAとUKBA-2

中国では、商業賄賂を取り締まる従来規制がありました。商業賄賂とは、商業活動をスムーズに行うために、公平な競争の原則に反して、何らかの利益を提供する行為です。しかし、実際はグレーな部分も多く、不明瞭でした。

そして、2017年には法改正がなされ、反不正競争法に関する条文に大きな変化がありました。新規定では、贈賄の相手団体または個人の対象が広がり、国有企業と民間企業の区別がなくなりました。また、事業者のスタッフが贈賄をした場合も事業者の行為とみなされるように改正されました。

中国で取り締まり対象となる典型的な事案として注意したいのが、「リベート」と呼ばれる取引への謝礼として授受される金銭です。自社のビジネスを有利かつ円滑に進めるために、リベートが潤滑油として機能することもあり、実際に多くの国では罪に問われないケースもあります。しかし、中国ではリベートについての明確な定義がされておらず、公平競争を歪めたとみなされれば取り締まりの対象になる可能性があるため注意が必要です。

 
4-2. 日本の外国公務員贈賄罪

日本では、不正競争防止法にもとづいて、「外国公務員等に対して、国際的な商取引に関して、営業上の不正の利益を得るために、贈賄等をすること」を禁止しています。これは1997年にOECDで署名された外国公務員贈賄防止条約の「国際商取引における外国公務員への不正な利益供与が、国際的な競争条件を歪めているとの認識のもと、これを防止することにより、国際的な商取引における公正な競争を確保する」という趣旨に則ったものです。

罰則規定は、FCPAやUKBAと比較して低いものの、個人の場合「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」で、法人は「3億円以下」です。経済産業省のホームページで用語の定義や規定の詳細が公開されており、担当者は内容を把握しておく必要があります。
 

5. まとめ

FCPAは外国公務員への贈賄や、それに関連した不正な会計処理を禁止する規定です。UKBAも贈収賄を禁止する法律という点は共通していますが、公的機関や民間企業の区別がなく、少額の慣習的な利益の受け渡しも適用されるといった違いがあります。
いずれにしても、取引がグローバル化する中で、商慣習や法制度の違いの中で、社員あるいは会社自体が思わぬ罪に問われ、多額の賠償金などの痛みを被ることが他人事ではない現実となってきています。
海外取引を行う企業の方は今後はこれらの法律の内容をよく確認し、各法律に抵触しないよう、企業は適切な対策を講じる必要があります。 

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