海外取引を行う全ての企業が知っておきたいOFAC規制とは?

OFAC規制

2018年12月5日、「カナダ当局が、米国の要請に応じて」中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)副会長を逮捕したことが報じられました。その後中国のハイテク関連株の大幅な低下はもちろん、中国政府からのカナダ政府への抗議など、国際間の緊張が高まっています。

遡って米国は昨年から、同じく中国通信機器大手であるZTE社を「イラン制裁プログラム」に違反した上虚偽説明していたとして、米国企業との取引を7年間禁じる制裁を決めており、ファーウェイについても同様の違反での捜査が伝えられていたところでした。これらは米中間の政治、貿易、安全保障をめぐる幅広い緊張が背景にありますが、ファーウェイ副会長の直接の逮捕理由もやはり「イランへの不法輸出」であったと報じられています。

対北朝鮮の核ミサイル問題に続き、2018年8月のイランの核合意離脱、中東でのロシアの化学兵器の使用疑惑等への米国の経済制裁が決定されました。米国が決めた規制により海外の企業が幹部の逮捕、取引停止、制裁金を課されるなどの処罰を受ける、そんな事例が増えています。
9.11テロから高まった国際的な反テロ、反マネーロンダリングの流れから、規制の直接の対象国のみならず、それらの国やその国の企業と取引を行った企業へも巨額の制裁金が課され、時には今回のような責任者の逮捕や直接制裁までもが待ち構えているという事もあり、それらの取引の実際の決済を行う日本を含めた各国の金融機関なども神経を尖らせています。日本でも警察庁の犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)を通じて国際機関と疑わしい取引の情報を交換しており、昨年は一昨年の292件から384件へと大きく増えています。

意図的な規制違反はもとより知らずに行った取引も制裁対象となったり、口座凍結や資金回収が滞ったりします。海外取引をするすべての企業がこれらの規制の存在を認識・理解し、充分な対応を図る必要があるといっても過言ではありません。本稿ではOFACの概要、注意点と他にも存在する同様の規制についてまとめてみました。

1. OFAC規制とは

OAFC、或いはOFAC規制と検索すると、上位には銀行からの注意喚起がずらりと並びます。よく見ると多くの記事が“米国”OFAC規制と書いてある通り、本来は「米国の財務省外国資産管理室(The Office of Foreign Assets Control)が定める(規制)」となっています。なぜ日本の私たちが、米国財務省の規制を気にしなければならないか、ここで簡単に確認しておきましょう。

1-1. “OFAC”とその規制とは

米国には「外国資産管理法」(Foreign Assets Control Regulations)という法律があるのですが、OFACはその名のごとく、この法律に基づいて必要な情報発信から違反者への制裁・処罰の設定などをつかさどっている組織で、この法に基づく各種規制が「OFAC規制」と呼ばれています。

1-2. どのようなことが規制の対象になるのか

もともとOFAC規制と呼んで義務付けているのは”米国”法人、”米”国籍保有者、”米国”居住者に対して「(国家の安全保障を脅かすとして)大統領が指定した対象(国、法人、個人など)の資産を凍結する義務を課す」というものです。

この延長で、まず日本法人で米国に拠点を持つもの、例えば銀行や大手企業などは直接の対象となってしまいます。そして国内から海外送金をしようとする法人・個人、或いはそれを代行する(海外拠点のない)地銀なども、外貨建て、特にドル建ての送金をしようとすると、ほぼこの規制対象となる機関を利用することになるために、送金先等が制裁対象であれば間接的に規制を受ける、という事になります。

1-3. どのような国や法人・個人が規制の対象となるのか

規制対象の直接の基準は、1-2.に記載のように「(国家の安全保障を脅かすとして)大統領が指定した対象(国、法人、個人など)」です。

具体的にはSDN(Specially Designated Nationals and blocked Persons)リストと呼ばれる一覧表に記載されたものが中心となりますが、OFACにはその他の制裁リスト(Other Sanctions Lists)があり、部門別制裁者リスト(S​ectoral Sanctions Identifications List )、海外制裁逃避者リスト(F​​oreign Sanctions Evaders List)などがあります。

制裁リストの一覧は米国財務省のこちらのページでご覧になれます。(英語表記です)<米国財務省ホームページのリソースセンター:制裁プログラムリスト>

実際のリストには「ある一か国すべて」「何々国政府」という形の指定ではなく、規制対象国の金融機関や要人、その関係先などが指定されているのが一般的です。例えば中東のテロ組織やその中心人物、共産圏各国の銀行や企業、日本では暴力団とその関係者らや、イランやキューバ系とみられる銀行、企業などが指定されています。そしてその根拠が「キューバに関する制裁(Sanctions)プログラム」「イランに関する制裁プログラム」のような形で定められた各国向けの制裁となっていますが、中には特定の国や地域ではなく「テロ関連の制裁プログラム」「サイバー関係の制裁プログラム」といった形のものもあります。

SDNリストは米国財務省のウェブサイトの以下のページでPDFやテキストファイルの形でみることができます。<米国財務省ホームページのリソースセンター:SDNリスト>

その他のOFAC規制対象リストも上記のリンク先から見ることができます。

1-4. 規制に違反したらどうなるのか~実例をもとに~

米国内外を問わず、違反者への制裁は公表されており、米国財務省の以下のページで2003年以降の事例を見ることができます。(英語表記です) 
<米国財務省ホームページのリソースセンター:民間の処罰・適用一覧>

冒頭の中国系中心企業のZTE社の取引制裁(2017年7月3日付)の他、記事執筆時点の2018年12月ではOFACによる制裁は、例えば①同11月27日に発表の米国バージニア州の民間企業がウクライナ関連の制裁プログラムに違反(違反地域に持ち込まれることが明らかであるのに規制対象の電子部品を第3国(ロシアやカナダ)の卸業者を通じて販売)したとして8万7千ドル(日本円でおよそ1千万円)の制裁を、②また11月19日にはフランスのソシエテジェネラル銀行が2012年までの5年間でおよそ1,000件に上るキューバ制裁プログラムその他についての「意図的な」(内部から制裁に違反する懸念の声があったのに繰り返し実行した)違反に対して約54百万ドル(日本円で約60億円)の制裁金の支払いに合意、また③6月6日にはスウェーデンの有名な通信機器メーカーのエリクソン社がスーダン制裁プログラムその他に違反(輸出規制の対象である衛星通信関連の部品を、制裁対象地域であると知りながら隠ぺいの意図をもって無許可で使用)したとして150万ドル(約1億7千万円)の制裁金にそれぞれ合意しています。

また、このページにはそれ以前の違反の一覧へもリンクが設けられていて、これを辿ると毎年4~5件程度、2017年に限っては16件もの米国内外の民間企業が制裁を受けていることもわかります。

2. 必要な対応

それでは、海外取引の際にこのOFACからの突然の制裁を受けないために、私たち日本の企業は何をしたらよいのでしょうか?時系列に沿って以下にまとめてみました。

基本的には予備知識や経験のない担当者や個人がOFAC規制を含め海外取引に絡む様々な規制を全てクリアすることは困難です。以下の基本的な知識をもとに、必ず専門家や監督官庁に相談して安全を確かめてから取引を行いましょう。

2-1. 海外取引の開始時/再開時

前述のように規制で直接に義務を負っているのは米国に拠点を持つ企業・金融機関等ですが、知らずに規制対象先やその関係先とみられる企業等と取引を(行おうと)すると、口座を凍結されたり決済ができなかったりという事になります。このために「シロ」とする根拠がない先、かつて「シロ」であっても規制対象地域との関係が深い取引先等との一定期間後の取引の再開時には、新たに規制の対象となっていないかの確認が必要です。

2-1-1. 取引(予定)先の確認

海外取引が多い事業者と、その決済・送金等を担当する金融機関は、ページ中段にある「更新リスト」(Changes to the SDN List:)を常時チェックして、既存取引先が新たに対象となっていないかを逐一チェックする必要があり、規制対象周辺との取引は大変に負担の大きなものとなっています。

実務的にはこれらリストを読み込むよりも、米国財務省が用意してくれている検索エンジン(Sanctions List Search)を利用するのが簡単です。

ただし、名称の綴りの微小な差異などで漏らしてしまうリスクもありますので注意が必要です。

2-1-2. 取引(予定先)のステークホルダーの確認

またOFAC規制への対応を難しいものにしている大きな要因の一つに、これらのリストに直接記載がなくても対象法人の幹部であったり、逆にリストの対象である個人(複数の場合は合わせて)が支配する法人などであったりするものに対しても規制する、いわゆる「50%ルール」(50%以上の実質的な支配権を持つステークホルダー=実質支配先・周辺関係者等との取引であっても実質的に記載対象との取引とみなされて規制・制裁の対象となりうる場合がある点)が定められていることです。日本でいう「迂回融資」のようなものと捉えられる、と言えばイメージし易いでしょうか。

当社でも米国系などの銀行との取引の際には、一定比率以上の株主の内容までも事前に登録をしています。具体的には親会社があればまずそれを、それからさらにその所有(株主構成やさらに親となる企業の出資者とその比率など)状況を明らかにし、50%以上の影響力を持つ個人や企業についても制裁対象でないことを確認する必要があるのです。

2-2. 取引継続時にもアップデート

前項では、取引の開始時/再開時について述べましたが、実は継続取引先にも定期的なチェックが欠かせません。

OFAC規制への対応をさらに難しくているのが、毎日といってよいほどのリストの更新です。2018年も1月4日から毎日のように更新され、4月3日なども十数ページにわたって追加がなされ、11月6日時点で300ページ近くに上っています。

2-1-2.項で紹介した当社の取引事例でも、定期的に登録内容のアップデートが求められ、それを取引先が調査会社からの企業情報と突合することで確認されています。

2-3.国内取引でも油断は禁物

冒頭より、OFAC規制は米国財務省の規制であり、直接の義務者は米国に拠点を持つ企業であり、対象は米国大統領が指名する米国の国家安全保障を脅かすもの、と説明してきました。このために「うちは国内取引だけだから関係ないね」と言いたい方も多いと思いますが、残念ながらそうも言いきれません。

実は日本の暴力団組織やその主だったものや関係者、或いは被制裁諸国の日本現地法人など、24者(社)が記載されており、少なくとも米国に拠点を持つ金融機関や企業は、これらの対象者(及びその利害関係者)の資産凍結の義務を持ち、違反すればOFACの制裁対象となりうるのです。

初めてお取引する相手先の信用調査はある程度一般化しているとは言え、いわゆるフロント企業など通常の事業者の形をとっている利害関係者も存在しており、50%ルールなども考えると、「国内だから関係ない」とは決して言いきれないのです。

3. OFAC規制だけじゃない!類似の規制

OFAC規制はその対象を「((米国の)国家の安全保障を脅かすとして(米国の))大統領が指定した対象(国、法人、個人など)」としていますが、その他にも多くの、様々な対外取引規制が存在します。

OFACのような経済取引の規制のほかにも、工業製品・技術や農林水産資源、麻薬・違法薬物、武器輸出、或いは環境保護に関する規制などが様々ありますが、ここではOFAC規制と類似の、或いは関連する経済取引の規制についてみてみます。

少しご年配の方ならCOCOM(対共産圏輸出統制)や、のちにCOCOMに統制されたCHINOM(対中国貿易統制)等を覚えておられる方もいらっしゃるでしょうが、冷戦終結、ソ連穂崩壊等から戦後の資本主義国と共産主義国の対立という構図は薄れ、国際紛争や国際犯罪、テロ等への対策の目的などが見られるようになってきています。

3-1. 海外の主な類似規制

金融機関や海外取引の多い企業では関心の高まっているOFAC規制ですが、その性質(政治その他の背景である諸外国が同意する合理性がある/実際に強制力を持つ必要がある)もあって、金融機関をはじめとした他国の企業までを対象とする規制はそれほど多くありません。

代表的なものは国連による制裁で、2018年12月6日現在、国際紛争の政治的解決、核不拡散、テロ対策等の目的で、イランや北朝鮮を対象としたものを含めて14の制裁プログラムが実行されています。

国連の経済制裁関連ページ(画面左上の”SANCTIONS”メニューから、個別の制裁プログラムの委員会のページをご覧いただけます。)
国連の制裁の統計的な概況説明ページ

また、EUやロシアといった国や国際的な共同体も核を含む武器を始め軍事目的に転用可能な民生品等にも「輸出規制」を設けています。このために、これらの国や地域を拠点とする/経由する取引を始める際には、自社での事前の確認をしたうえで、さらに政府機関や専門家への相談が欠かせません。

3-2. 日本の規制

日本では、貿易としては主として経済産業省が、それにともなう決済などの信金面では財務省が、それぞれ「外国為替及び外国貿易法(外為法)」を通じて管理(規制)しており、また海外との資金のやり取りについては、国家公安委員会(警察庁)が管理する「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」上の制限もあります。

3-2-1.経済産業省が管理する規制

外為法で経済産業省が管理する(主務大臣が政令で経済産業大臣となっている)日本の輸出管理制度については、経産省の規制は大きくはリスト規制とキャッチオール規制と呼ばれるものに分かれています。これらは大きくは

・リスト規制:分野(例えば「武器」)ごとに規制品目がリスト化されており、自社が取り扱かおうとする商品がリストに該当すれば、取引に同省の許可が必要となります。
・キャッチオール規制:①「リスト規制対象外のもののうち、明らかに大量破壊兵器 の開発等には用いられないもの(食料品や木材等)を除 き、全ての貨物と技術」②経産省による判断

という形で定められています。大量破壊兵器等に利用される恐れがあるものを取り扱う場合や、同省から許可をとるように求められた場合には、同省が「安全貿易審査課」に設けている窓口などに事前の相談が必要となります。
上記は同省の資料に解り易いものありますので、一度目を通しておくとよいでしょう。 <経済産業省の「日本の輸出管理制度」概要説明資料
また同省のホームページでは外為法の全体の体系などをやはり解り易く解説してくれています。こちらも一度よく読んでおくとよいでしょう。 <経済産業省ホームページでの外為法の概要説明ページ

3-2-2.財務省が管理する規制

同様に財務省が管理する(主務大臣が外財務大臣となっている)海外取引は主に経済制裁措置の形で制限されています。いわば日本版OFACとも言えます。同省のホームページでも①「外為法の主な内容(経済制裁措置以外)」と②「経済制裁措置及び許可手続き」と区分しています。

・外為法の主な内容(経済制裁措置以外):内外の資本取引、外国為替、事後報告制度、一定額を超える現金等の携帯輸出入の届け出、外国為替業務に関する報告制度などを定めています。
・経済制裁措置及び許可手続き:米国のOFAC同様「国際約束の履行」「国際平和への寄与」「国の平和の維持安全」などに特に必要として主務大臣(財務大臣及び経済産業大臣)が定めるものして、イラク、タリバン、コンゴ、スーダン、北朝鮮、リビア、シリアなどの少なくない制裁措置が定められています。

これらもやはり財務省のホームーページでご覧いただけますので、海外取引の際には自社での事前確認、該当の可能性がある場合は政府機関や専門家への事前確認・相談が必要です。財務省ホームページ上の外為法・為替関係の規制概要説明

3-2-3.国家公安委員会/警察庁が管理している規制

国家公安員会と警察庁は、外為法とは別の流れの中で国際的な資金の流れについて管理・規制しており、その根拠となっているのが「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)」です。

もともとは麻薬犯罪等の薬物犯罪が暴力団の資金源とみられていたことに端を発していますが、徐々に諸外国の基準と整合を図るとともに、警察庁内に「犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)」を置いてFATF(Financial Action Task Force on Money Laundering:金融活動作業部会=マネー・ローンダリング対策における国際協調を推進するために、1989年のアルシュ・サミット経済宣言を受けて設立された政府間会合)とも協力しています。

3-3. 各種の規制に抵触しないために

これまで見てきたように、日本政府が実施している規制のほかにも、国連や力のある先進国、或いは実効性はともかく紛争当事国が主張する相手国への制裁など、OFAC以外の国際取引への規制も数多く存在します。すべてを事前に理解することは事実上困難ですが、海外取引を行う際には基本的には以下のような姿勢で臨むことが大事です。

【各種海外取引規制に抵触しないための基本5つ】

1.まずは法令・規制の存在が存在するものとして、その概要を調べる/知る
2.海外取引先については日、米、該当国の法令・規制をまず自社で確認する
3.そのうえで当該法令・規制に詳しい外部専門家を選定しアドバイスを受ける
4.継続して/繰り返して取引行う場合には取引先の継続的な確認のための体制・ルール(規定)を定める
5.決めた規定を規制の発効や撤廃に併せてアップデートしつつ徹底する

4.まとめ

今回は冒頭でも述べた、目前の2019年に迫ったFATFのマネーロンダリング規制の対日相互審査や、日本との石油取引を通じて親交の深いイランが、核合意の問題等で米国の規制対象として緊張が高まっていることなどから関心が寄せられているOFAC規制を中心にまとめてみました。OFAC規制の他にも3章で述べたような様々な海外取引に関する規制があったり、海外の規制が日本国内でも適用される可能性があったりと、非常に複雑な構成となっていることが理解できたかと思います。海外取引はもちろん、国内の取引でも、取引先の信用については自社でのチェック体制を構築しつつ、必要な際には適切に専門家や監督官庁に相談して、安全な取引を徹底しましょう。

 

 

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