ペーパーカンパニーによる取込詐欺に巻き込まれない企業の見分け方

2021/01/22

ペーパーカンパニー

企業経営の中で、事業実態の無い「ペーパーカンパニー」に出くわしたことはありませんか?
新規の取り引きを始めようとして相手の会社を調べようとしたらホームページが存在せず帝国データバンクにも情報が無いような会社。商業法人登記はされているものの事業実態の無い会社のことをネガティブな意味を込めてこう称されます。
本記事ではペーパーカンパニーの使われ方を概説し、主に犯罪の道具として使われた事例を紹介しつつ、実業が無い怪しい会社の見分け方をお伝えします。
 

 
1. ペーパーカンパニーは3つの目的に分けられる

ペーパーカンパニーという概念には常にネガティブなイメージが付いて回ります。
その設立・利用される目的は大まかに三つに分類されますが、脱税・詐欺などの違法行為の道具として使われたり、違法でないまでも税金逃れに絡むグレーな使われ方が主なものであるからです。
本章ではペーパーカンパニーの設立目的を俯瞰して解説します。
 

1-1. 節税対策としてのペーパーカンパニー

資本金1億円以下の中小法人に適用される法人税は利益が800万円以下の場合は課税率が大幅に下がります。このルールを利用し別会社との間で800万円超の利益を分散すれば大きな節税となります。
しかし、実態のないペーパーカンパニーを実業があるかの様に装い取り引きを工作などしている場合は脱税として摘発されます。こうした脱税行為は後を絶たないイタチごっこなのが実情です。
この他にも中小事業者には課税や交際費の取り扱いについての優遇措置があり、ペーパーカンパニーを巧みに利用し法の目を盗もうとするモラルが欠如した経営者は後を絶ちません。
 

1-2. 租税回避・マネーロンダリングのためのペーパーカンパニー

2016年4月に公表された「パナマ文書」のスクープはまだ記憶に新しい所ですが、スイスやケイマン諸島、ヴァージン諸島といったタックス・ヘイブン(租税回避地や低課税地域)にペーパーカンパニーを設立する目的は大きくは二つあります。
第一には個人や法人がその自国の課税から逃れるための脱税行為です。タックス・ヘイブンに設立される法人は代表者に代理人の弁護士を使うケースが多く実質的所有者を隠すことができ、また他国の税務調査の要求に応じないなど秘匿性が高く、これまでは脱税行為としての摘発を逃れられてきています。
一方、その秘匿性の高さをさらに悪用して犯罪で得た資金などを隠すマネーロンダリングの手段として使われるのがもう一方の設立目的です。こちらは暴力団やマフィアなど組織的犯罪集団の資金の隠れ蓑となっているのです。暴力団ではないですが日産の元会長カルロス・ゴーン氏が特別背任で逮捕された事件は、会社の資金を私的に流用するためのルートとしてブラジルやレバノンのペーパーカンパニーが使われていて、そのスキームについて各方面から「まるでマネーロンダリングだ」と指摘されています。
 

1-3. 犯罪・詐欺行為の目的でのペーパーカンパニー

昨年、新型コロナウイルス感染のパンデミックへの経済対策の一つとして打ち出された事業者への持続化給付金の制度に目を付けた詐欺が横行しました。
極めてシンプルなスキームですが、休眠企業や設立後複数年経ったペーパーカンパニーの売上高を偽装してコロナで急落したとの嘘の申告で給付金最大200万円をまんまとせしめる手口です。
この他昔から数多発生している「取り込み詐欺」「投資詐欺」「融資詐欺」などの犯罪行為の多くに、ペーパーカンパニーが巧みに偽装されて騙しのスキームに組み込まれています。
次章では犯罪行為にペーパーカンパニーがいかに使われているかの事例を紹介していきます。
 

2. ペーパーカンパニーを利用した犯罪のスキーム

これらの事例と同じようなシチュエーションに遭遇したら詐欺のスキームを思い出して一瞬立ち止まり、リスク回避の行動を取ってください。
 

2-1. 家電・パソコンなどを狙い撃ちの取り込み詐欺

2020年9月 三建商事と名乗るペーパーカンパニーを駆使した取り込み詐欺集団の5人が逮捕されました。
その詐欺のスキームはじつに古典的なもので下記のようなプロセスで実行されました。

①実業があるかの如くニセの事務所を作り上げ信用させる
②初めの発注は小さいロットで、期日前に支払う
③相手を信用させたところで大量発注をする
④納品後支払いはせずに事務所をもぬけの殻にする
⑤そして転売して丸儲け

詐欺集団は2015年頃からこの手口で約170件の被害者から約6億円相当にも及ぶ商品をだまし取っていたと見られています。
被害に遭った企業がこれだけの件数に及んだのには、三建商事の設立来の変遷に要因があります。
登記上の設立は1997年でレイソウという社名でスタートしていますが、ほどなくして代表者不在の休眠状態になります。その後2007年に三建商事に商号変更され、この時点から既に取り込み詐欺の隠れ蓑として利用され始めていました。以後、代表者交代が6回、本店移転が4回も繰り返されており、商業登記簿上では移転前の閉鎖登記を何度も取得しなければその経緯を知る事ができません。しかし、通常のしかも小規模な商取引であれば、その繰り返された変遷を遡って調べることまではされないでしょう。
取り込み詐欺は物販など一般的な商取引での与信管理の脇の甘さを突いた犯罪なのです。
 

2-2. 地面師が使うペーパーカンパニーと架空人物による周到な詐欺の手口

●アパホテルが赤坂の土地購入代金12億円をだまし取られた事件

●積水ハウスが騙されて支払ってしまった55.6億円を特別損失計上した詐欺事件

いずれもその手法は目新しいことのないオーソドックスなものでした。
そのスキームには共通したプロセスが多くあります。

1)そこに所有権者が居住しておらず遊休状態の無担保のキレイな土地を狙う。
2)既に死亡しているか、相当に高齢で不動産取引には出てこられないような所有権者を狙う。
3)はした金で雲隠れしても問題にならないような高齢者を雇い所有権者に「なりすまし」させる。
4)売主側から出される書類関係は全て偽造(土地権利書、固定資産評価証明書、印鑑証明書、パスポートなど)
5)騙すターゲットとの取り引きにはペーパーカンパニーを中間業者として間にかます。
6)司法書士や弁護士などを必ず介在させ信用性を演出する。(士業の人物もグルのケースもあれば、騙して利用のケースもあり)
7)契約成立し中間業者に支払いが実行された直後に関係者は姿を眩ます。(海外逃亡など)
 

2-3. 節税用に登記のペーパーカンパニーで虚偽申請し持続化給付金を搾取

新型コロナウイルスのパンデミックで経済活動が縮小し事業の継続が難しい中小企業への救済策として創設された「持続化給付金」。受給資格は、売り上げが前年同月比で50%以下に減少している月がある事業者で、中小企業には最大200万円、個人事業主には最大100万円が支給される仕組みです。
中小零細企業で節税対策用にペーパーカンパニーを数社持っているケースは沢山ありますが、そうした企業オーナーが悪知恵を働かせて濡れ手に粟のごとく給付金をせしめる詐欺が横行しています。
そのスキームはごく簡単なものです。

①保有ペーパーカンパニーの前年度の売上を粉飾し修正申告 (例:前年度10万円のところを200万円など)
②同時に経費も同等の金額で修正申告(例:経費200万円とすれば利益0円で法人税は課税なし)
③今年度の売上は自己申告でOKなので前年同月比で50%以下の売上になるよう前後の月に分散して申告。
④【給付額】=【前年(2019年)の年間事業収入】-【前年同月比▲50%月の月間事業収入×12ヶ月】  の計算式で持続化給付金は支給される。

この制度は経済産業省がにわか作りで制定したもので国税庁とは違い申告内容の裏取りすらされない為、嘘の申告で易々と給付金をせしめている詐欺が数多いるのです。関係者の告発やあまりにも不自然な申告で嘘が見破られ摘発された法人や人物もありますが、氷山の一角でしかないと見られています。
 

3. ペーパーカンパニーの実態を見破る為に絶対に実行するべきこと

そもそも人を騙して金をせしめようとする犯罪行為が詐欺ですから、そのスキームに登場するペーパーカンパニーも表向きは簡単に見破れるものではないです。
しかし、できる限りの情報収集を実行する中で、ずばりと見抜けないまでも「怪しい」とか「何か臭う」とかブレーキを掛けるだけの材料を得られる可能性はあるはずです。
 

3-1. まず直接アプローチする

訪問でも電話でもまずは直接アプローチしてみることです。
前述の「三建商事」のようにあたかも実業があるかのように事務所を演出しているケースもありますが、一方で騙される相手を舐めてかかっていることもあります。
【電話に出ない】【現地に社名の表示が無い】【表示があってもテプラテープだった】【バーチャルオフィスだった】などの状況があれば、その取引には前のめりになるべきではないでしょう。
 

3-2. 商業法人登記簿の取得

企業の商業法人登記簿は法務局で誰でも取得することができます。
そしてその企業がペーパーカンパニーか否かをチェックするポイントはいくつかあります。下記の様な状況が見られたらその企業の信用度は黄色信号、ペーパーカンパニーである確率も高まります。

①取締役の退任・重任の変更登記が長年なされていない
株式会社は基本的に役員の任期を2年と定められており、任期満了で退任登記、継続で重任登記を行うことが義務付けられています。この場合事実上の休眠企業の可能性が高くなります。

②社名変更が頻繁
企業の成長とともに発展的な社名変更がなされているならいいのですが、1~2年単位でコロコロとまったく関連性のない社名に変更されているとすれば、それは前の社名を隠そうとする行為であることが考えられます。企業名のネームロンダリングです。

③本店移転が頻繁
一般的に商売において、そこに根を張り地盤を固めていくことは信用を形成するための大切な要素です。「当地で20年営業しています」と言えば、それだけで相応の信頼が得られます。
頻繁な本店移転は企業経営に必須の信用形成をなおざりにするものであり、真っ当な商売ではない俗に言うパクリ屋、取り込み詐欺が「ずらかる」ための常套手段なのです。
本店移転でも特に、登記している法務局の管轄外への移転は注意が必要です。
管轄外への移転ではその法務局での登記は閉鎖され、移転先所在地の法務局で新たに登記されます。
つまり、現在の登記を見ただけではその企業の歴史を紐解くことができず、前の所在地に遡って登記を確認しないとリスクを見落としてしまう恐れもあるのです。

④代表者の交代が頻繁
社長は企業の顔です。その顔がころころと変わるようでは企業の信用構築はままなりません。
代表取締役が任期を待たずに頻繁に交代されているようであれば、それは内紛が起きて交代を余儀なくされているか、代表者が犯罪に手を染めて逮捕されたり裏に隠れたりしている可能性があります。
①項で記述したように長年役員重任登記が成されずある時突然代表者が交代しているとすれば、休眠会社が買い取られ犯罪の道具として利用されている可能性も浮かびます。

※商業法人登記簿の読み方はこちらの記事に詳しく解説していますので参考ししてください。
 「会社を知るはじめの一歩!プロの調査員が指南する商業法人登記活用術」
 

3-3. インターネット検索を駆使

【ホームページの有無確認】は事業が実際に行われているかどうかを確認するイロハのイです。
会社概要はもちろんのこと、 事業内容、採用情報、個人情報保護方針、外部とのリンクなどがきちんと作り込まれているかをチェックして既に得られている情報との矛盾が無いかどうかなどを確認します。 さらには社名、代表者名、他役員名での検索、社名変更や前代表者の氏名など分かればそれらでの検索を必ず実行します。
面倒くさがらず「詐欺」や「犯罪」「逮捕」などの関連キーワードも付けて検索するべきでしょう。
5ちゃんねるなど掲示板や転職サイトでの書き込みなどでネガティブ情報が得られるケースは少なくありません。無償で得られる転ばぬ先の杖です。活用しない手はありません。
また、多少費用を掛けてでも日経テレコンなどのメディアサイトで記事になるような犯罪・事件を起こしていないかを検索することも大切です。
 

3-4. 信用調査会社のデータ取得 あるいは 調査機関に内偵調査を依頼

帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社に調査員聞き取りによる企業信用調査の報告書が存在すれば、最低限企業実態があるとの判断をしてよいでしょう。(与信面で信用できるか否かは別問題ですが)
一方、A4サイズ1枚で報告される企業概要データは自己申告の書類提出による報告ですから注意が必要です。企業概要データしか無い(あるいはそれすら無い)企業であれば、①取材や自己申告を拒否、②設立したばかり、③ペーパーカンパニーのいずれかの可能性が高いですから、信用性は著しく低くなります。本来であればそれが判明した時点で取引や提携などは進めるべきではありません。
それでも関係を構築すべきファクターがあるならば、相手企業に調査とは悟られないように周辺情報の収集や工作取材による内情の探り出しなどを行う内偵調査を専門の調査機関に委託しましょう。

※帝国データバンク・東京商工リサーチ両社の信用調査についてはこちらで詳しく解説しています。
  「信用調査会社のビッグ2、帝国データバンク・東京商工リサーチを徹底比較する」
 

4. まとめ

詐欺集団は次から次へと出没し新しい騙しのスキームを生み出し、企業から個人から金を巻き上げようと虎視眈々と狙っています。新しい取り引きの時、急に大型取り引きが生じた時、旨い儲け話が持ち込まれた時など、その取引先企業がペーパーカンパニーでないのか?信用に足る企業なのか?必ずチェックしましょう。詐欺に引っ掛かって大きな損害を被った時のことを考えれば、少しの手間と少しの費用でリスクヘッジすることを惜しむ理由はありません。

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