セクハラし放題の上司を極秘調査!内部通報で社内不倫の証拠まで発覚

役員秘書室に異動した20代の女性が2ヵ月もたたないうちに退職

 外食業界で、非上場ながら従業員1000人を超える業界大手のA社から「すぐに来てほしい」と連絡があったのは、数年前の梅雨入り間もないころのことです。その年の4月に新任の管理部長となったB部長からのお話は、内部通報で判明した社内のセクハラ疑惑に関するものでした。

B部長 「雨の中、急にお呼び立てして申し訳ありません。お恥ずかしい話なのですが、社内のセクハラ疑惑の調査をお願いしたくてご連絡したのです。まずはこれを見てください」

 B部長は、そう言ってこの数ヵ月の出来事を時系列に沿って、分かりやすく話してくれました。

 要約すると、4月にB部長が転職で入社してきたタイミングで役員秘書室に異動となった20代女性のCさんが、5月のゴールデンウィーク明けから体調不良で休みがちになりました。

 心配したB部長が5月中旬になって面談すると、Cさんは体調不良の原因などには触れず、いきなり異動願いを出してきました。理由を聞くと、役員秘書室の仕事はやりがいがあるものの、現場の店舗運営や店舗管理(店長職やエリアマネージャー職)に戻りたいからだと言います。

 しかし、配属から2ヵ月も経たないうちに異動するというのは、よほどの理由がないと認められません。そこでB部長は、「できれば9月まで半年間は秘書室で頑張ってもらえないでしょうか」と伝えたところ、Cさんは「分かりました。やってみます」と答えましたが、5月末になって直属の上司に退職届を提出し、慰留も虚しく退職となってしまいました。

専務のセクハラ被害者は複数 食事やカラオケを強要

 すると、6月上旬になってから内部通報窓口に匿名で「X専務は立場を利用して女性社員に食事やカラオケを強要しています。退職したCさんも被害者の一人です」という通報が寄せられました。

B部長 「Cさんの退職には責任を感じています。もう少しきちんと話を聞いてあげられればと。異動当初は明るく楽しそうに仕事をしていた彼女が急に辞めるというのは、よほどのことがあったからだと思います。そもそも、秘書室への異動は彼女の希望だったのですから」

トクチョー 「X専務とはどのような方なのでしょうか」

B部長 「専務のXは50代後半で、私と同じく転職組です。もともと都内に十数店舗しかなかったA社を全国チェーンにしたのはXの手腕によるところが大きく、現在は店舗開発と現場の従業員育成を統括する立場です」

トクチョー 「X専務はそもそもセクハラしそうな人だと感じていましたか」

B部長 「私も着任当初から、Xの女性関係のだらしない噂は聞いていました。いつだったかエレベーターで一緒になったとき、『新宿店で副店長をやっているかわいい子がいるだろう。あの子はいつ本社勤務にするんだ?私の下で鍛えてみたいんだよ』などと言っていたのです。当時は冗談だと笑ってしまいましたが、今思えばXは本気で狙っているのかもしれません。セクハラが事実だとすれば、Cさんには会社として相応の誠実な対応をしておかないと、後々訴えられかねないとも考えています」

トクチョー 「それでは、今回はX専務のCさんに対するセクハラの事実を調査するということでよろしいでしょうか」

実力ある役員に配慮し調査がバレないようにと依頼

B部長 「はい。そのとおりなのですが、創業者である会長も2代目の社長も、Xの実力は十分に認めていて関係をこじらせたくないため、証拠がない段階ではXに対して直接ヒアリングをする予定はありません。当然、調査のことを知られるのも困るのです。社内でもこの件を知っているのは会長、社長に私の3人だけの極秘にしています。絶対にXにバレないような手段でお願いしたいのです」

トクチョー 「分かりました」

B部長 「それと、もう1つ。実は名古屋にある中部支社の女性の誰かに対してもセクハラをしているという噂があるため、調査はCさんとの関係だけでなく、他に被害者がいないかも含めて幅広く調べてください」

 中部支社勤務の女性に対するセクハラ疑惑は、秘書室の社員が「X専務は毎月数回、中部支社に行っていますが、接待費の領収書の額が決まって大体2名分なんです。秘書室では、誰か決まった人と会っているんじゃないかって噂なんですよ」と教えてくれたことから生まれました。

 A社の場合、役員の接待費は目的や相手を報告することなく年間予算内で使用することができるのですが、多くの領収書を処理する秘書室の社員は、店舗と金額で大体の人数は見当がつくのだそうです。

 セクハラ調査には、被害者が特定されているケースとそうでないケースの2つのパターンがあります。

 特定されている場合、被害者の協力の下、証言や日記といった記録のほか、被害状況を録音したり録画したりするなど、比較的証拠を集めやすいといえます。

 これに対して、被害者が特定されていない場合、セクハラが被害者と加害者だけの密室的な状況で行われることが多く、目撃情報などは期待できないため、加害者へのヒアリングや社内アンケート調査以外に証拠を集めることは困難です。

 こうした場合、加害者のメールやLINEなどのコミュニケーションツールにセクハラ発言がないか、また異性の社員に対して社内で11の面談をしたり、一緒に外回りに行ったりすることが多いなどの間接的な証拠から被害者を特定した上で、被害者にヒアリングをするという方法を採ります。

 今回のケースでは、トクチョーから、(1)Xのパソコンの操作ログと送信メールの遠隔取得、(2)過去のメール調査、そして(3)中部支社出張時の行動調査を提案し、すぐに着手されました。

パソコンのログと過去のメール そして出張時の行動調査を実施

 A社では、Xの働き方については本人に一任していたため、行動予定も本社にいるか外出しているかの記載しかなく、実際のところXが何をやっているのかよくわからない状態でした。

 (1)のパソコンのログや送信メールの取得によって、社内または社外の誰と会う予定なのかを突き止めようとしたところ、東京におけるアポイントは社外の人物と会っているようで、怪しい点はありませんでした。

 ところが、中部支社に行く予定はほとんどが「店舗視察」で1日に1店舗のみ、日帰りでも十分可能なスケジュールを金曜日、もしくは月曜日に入れることで宿泊が伴うようにしていたのです。そして、中部支社エリアの中でも愛知県以外の各県への店舗視察の同行者は、決まって中部支社のエリアマネージャーであるYという女性でした。

 そこで(2)の過去のメール調査では、Yとのやり取りを抽出して優先的にレビューしました。

 業務に関連するメールも多数ありましたが、ある時期からXがYに対して送るメールで、Yを苗字ではなく「レイコ」という名前の呼び捨てで記載されたものがいくつか見つかりました。しかも、「今度行くときは〇〇で食べよう」「昼は□□で遊ぼう」など、業務とはおよそ関係のないデートに誘うような内容が書かれていました。しかし、それに対するYからの返信はありません。Yからのメールは、業務に関連する内容のものだけでした。

 すぐにB部長に報告したところ、B部長は「十中八九、Yさんは被害者ですね。まだきちんと話したことはありませんが、Yさんは中部支社だけでなく、A社全体でも初めてエリアマネージャーになった女性で注目されています」と言います。

 その上で、「Yさんにはすぐヒアリングしたいところですが、急に私が中部支社に行くとXに怪しまれ、証拠隠滅や口封じをされるかもしれません。2週間後にある私の定例出張のタイミングでYさんにアポイントを取ろうと思います。もしかしたら何かあるかもしれないので、次回XとYが店舗視察で同行する1週間後の△月△日の金曜日から月曜日まで、行動調査をお願いします」と言われました。

 ところが、事態は思わぬ展開をしていきます。ある金曜の深夜、行動調査班からの報告はこうでした。

セクハラ被害者かと思いきやダブル不倫同士だった

【調査報告】
17:46
 Xは新幹線で名古屋駅に到着。
18:20
 〇〇ホテルにチェックイン
18:26
 荷物を持ったまま同ホテルのロビーに着席
18:41
 Yと思われる女性と合流しホテルから外出、すぐに手をつないで移動
18:57
 焼肉店〇〇に入店。Yと2人だけで着席
20:45
 同店を退店
20:47
 Yとタクシーに乗車
21:23
 名古屋市〇〇区〇〇のマンション〇〇前でYと同タクシーを下車
21:24
 Yと同マンション内へ移動
21:26
 301号室の室内灯の点灯を確認(301号室の表札と郵便受けはYと同姓同名)
24:00
 対象に動きなし。×月×日の調査完了。

 土日も2人は恋人のように仲良く一緒に過ごし、日曜の夜の新幹線でXは東京に戻りました。

 翌日の月曜日、B部長に行動調査結果の概要をお伝えし、その後Yとのやり取り以外の過去メールの調査が完了してから、最終報告をするためA社を訪問しました。

トクチョー 「Yとのやり取り以外にも、多くの女性社員に対して私的なメールを送っていました。特にCさんに対しては毎日のように食事に誘うメールがありました。どうやらCさんは全て断っていたようです。メールの本文自体でセクハラと思われるような内容のものはありませんでしたが、女性社員に対して食事やカラオケに誘っているという内部通報を裏付ける証拠となりそうです」

B部長 「ありがとうございます。Xはセクハラ常習者だったんですね。Cさんには会社として謝罪、補償すべきかどうか、弁護士と相談します。メールが送られた女性社員たちにもヒアリングしないと…」

「ふ~っ」と大きくため息をつかれたB部長は続けました。

B部長 「あれから大変でした。Yさんは若くして結婚され、子どもさんが独立したタイミングで、Yさんも岐阜から単身赴任で中部支社勤務になったそうです。例のマンションはYさんが借りているものでした。Yさんとの面談では調査に触れず、『X専務と何か不適切な関係はありませんか』と聞きました。Yさんはしばらくうつむいたままだったのですが、突然涙を流しながら、『すみません。会社辞めます』と言ったきり、あとは『X専務は悪くないんです』ということを繰り返すばかり。どうやら誘ったのはXらしいのですが、Yさんにセクハラという認識は全くありませんでした。翌日にYさんから退職届が出されて、中部支社長が説得したのですが…」

トクチョー 「不倫関係だったということでしょうか」

B部長 「Yさんの言い分からも調査してもらったメールからも、Xがセクハラ目的でアプローチしたことがきっかけなのは間違いありません。Xも既婚者です。会長は真っ直ぐな人で不倫などは最も嫌うタイプでしたので、すぐにXを呼び出してYさんとの関係については事実を認めさせて、表面上は病気ということで出勤停止にしました。8月の株主総会で再任せずクビにする予定です」

 その上で、Xに対する処分についてこう続けました。

B部長 「本当は接待費の不正流用とかも調べて責めなきゃいけないんですが、セクハラと不倫で追い出す理由は十分ですし、数百万円くらいの横領は損害賠償請求してXが争ってくるのも面倒だということで不問に付すこととなりました。会計士の私としては領収書から横領の損害額を算定するなんていうのは朝飯前なんですけどね」

 その後A社は、毎年実施していた管理職向けのハラスメント研修だけでなく、内部通報窓口とは別に相談窓口を新設したり、ES(従業員満足度)調査と絡めたハラスメントに関するアンケートを実施したりするようにしました。

被害者の声を聞き出す仕組み作りが重要

 近年、会社からのセクハラやパワハラといった、ハラスメント関係の調査依頼は増え続けています。しかし、役職の高い人物が加害者とされる場合、直接ヒアリングすると「社内の人間関係に角が立ってしまう」と言われるケースが多く、今回のような調査を行って証拠を集め、ある程度の確信が持てた段階でヒアリングしたいという会社が多いのです。

 また、トクチョーのお客様からは、トップに近い層の管理職に対するハラスメント防止の啓蒙や教育は、ほとんど意味をなさない場合があるという声も聞きます。バブル期を生き抜いてきた方にとっての当たり前と、現代のハラスメント感覚に大きなずれがあるため、いくら言っても当人たちは「そうは言っても俺の時代はこうだった」などとなかなか伝わらないというのです。

 となると、重要になるのは被害者側からの声をいかに引き出すかです。今年3月、日本証券取引所が発表した「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の原則1にも「実を伴った実態把握」の仕組みを持つことが掲げられていますが、内部通報だけでなくより気軽に行える社内・社外の相談窓口の仕組みを持ったり、ES調査を活用したりする企業も増えています。

 これは上場企業に対する調査で、回答した半数以上の企業における内部通報件数が年間05回と非常に少ないことからも明らかなように、内部通報制度だけでは組織内の不正やコンプライアンス違反を把握することができないと考えられているからです。

 しかし、労働局などに寄せられたセクハラの相談件数は年間6000件を超えています。社内で解決できないと、加害者だけでなく使用者責任で会社に対しても不法行為に基づく損害賠償を求められる事態に発展する可能性があります。またセクハラが明るみに出てしまうと、企業イメージの低下を始め、特に女性の就活生や転職希望者にも大きな影響を及ぼす深刻な問題です。

 トクチョーにセクハラ調査の依頼をされることのないよう、いま一度、社内の相談窓口、ES調査の定期実施などの仕組みを見直されてはいかがでしょうか?

 

この記事は事実を基にしていますが、登場する人物・団体・名称等は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。守秘義務のため、依頼者や調査対象者が特定できないように、事件の詳細は設定を変更しています。

※本記事は、トクチョーがダイヤモンド・オンラインに寄稿した「調査員は見た!不正の現場」シリーズの「アジア系転売屋組織vs日本メーカー、年間数億円の被害を出した手口」を改題・編集したものです。

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